病気やケガ、失業などによって生活に困った時、「生活保護」によって必要なサポートを受けられます。最後のセーフティーネットとして知られる制度ですが、生活保護ではいくら貰えるのでしょうか?
そこで今回は、生活保護を受給するための条件や受給金額について、詳しく解説します。
目次

この記事の監修者: FP 張替 愛
FP事務所マネセラ代表 ファイナンシャル・プランナー
大学で心理学を学んだ後、国内損害保険会社に就職。夫の海外赴任を機に独立。教育費・老後資金・女性の働き方・資産運用・海外赴任など、家庭ごとの状況や想いを大切にした家計相談を中心に、マネー講座や執筆活動を行う。2児の母でもある。
◆事務所公式サイトはコチラ
生活保護とは?受給できる条件は?
生活保護とは?
「生活保護」とは、生活困窮者に対し健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。日本国憲法第25条の理念をもとに、生活保護制度は成り立っています。
日本国憲法第25条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。引用元:日本国憲法第25条│e-Gov
厚生労働省によると、生活保護の受給者数は2017年をピークに減少傾向ではありますが、受給世帯数を見てみると、25年前に比べると大幅に増加していることが分かります。
<出典>
「生活保護」に関する公的統計データ一覧|国立社会保障・人口問題研究所(2015年まで)
被保護者調査:調査の結果 | 厚生労働省(2017,19年)
生活保護費の種類
生活保護には大きく分けて、8つの種類があります。以下のように生活をする上で必要な費用に対して、項目ごとに支給されます。
扶助の種類 | 内訳 | 支給方法 |
---|---|---|
生活扶助 | 食費や被服費、光熱費など日常生活に必要な費用 | 毎月支給 |
住宅扶助 | アパートなどの家賃 | 毎月支給 |
教育扶助 | 義務教育を受けるために必要な学用品費 | 毎月支給 |
医療扶助 | 医療費 | 費用は直接医療機関へ支払 |
介護扶助 | 介護費 | 費用は直接介護事業者へ支払 |
出産扶助 | 出産費用 | 定められた範囲内で必要に応じて支給 |
生業扶助 | 就労に必要な技能の習得にかかる費用 | 定められた範囲内で必要に応じて支給 |
葬祭扶助 | 葬祭費用 | 定められた範囲内で必要に応じて支給 |
<引用元>:生活保護制度 |厚生労働省
基本的には生活扶助と住宅扶助の費用が支給され、必要に応じて出産費用や葬祭費用が加算されていく仕組みです。また上の表以外にも、ひとり親の場合にもらえる母子加算、障害者手帳1~3級に該当する人への障害者加算、冬季にかかる灯油代などに利用できる冬季加算といったサポートを受けられます。
詳しい条件や受給額は、住んでいる地域の福祉事務所で確認してください。
<関連記事>:市役所でお金を借りる?生活福祉資金貸付制度とは?
生活保護を受給するための4つの条件
生活保護は世帯単位で受給されます。そのため世帯員全員が以下の4つの条件を全て満たすことで、生活保護を受けられます。
<条件1. 家や車などの資産を持っていない>
申請時に家や車などの財産を所有している場合は、まずそれらを売却して生活費に充てる必要があります。ただ例外として居住地に公共交通機関が少なく、車がないと生活が成り立たない地域は、条件付きで車を所有することが認められます。
また家や車以外にも、預貯金がある世帯は生活保護を受けられません。
<条件2. 働くことができない>
病気やけがなどの事情によって働けないことも、生活保護を受給する条件です。また働いていなくても年金によって十分な収入があれば、受給は認められません。
ただ後で詳しく説明しますが、収入があっても生活保護を受けられるケースはあります。
<関連記事>:生活保護でもキャッシングで借入できる?
<条件3. 他に活用できる公的制度がない>
生活保護以外にも、年金や公的制度によって援助を受けられる人は、まずそれらを活用することが求められます。公的な制度とは具体的に、市役所からお金を借りられる生活福祉資金貸付制度や、求職中の人が月額10万円の支給を受けられる職業訓練受講給付金などがあります。
また母子家庭の人はまず、「母子福祉資金」の利用を検討してみましょう。国が行っている貸付制度で、低利子または無利子で就学資金や住宅資金を借りられます。
<外部の関連サイト>:母子福祉資金の貸付け | 東京都福祉保健局
<条件4. 親族からの援助が受けられない>
本人や世帯員に収入がなくても、親族に資産があり、援助を受けられる場合は生活保護の対象外となります。頼れる身内がいないか、生活保護を受ける前にもう一度考えてみましょう。
<関連記事>:生活保護者にお金を貸すのってどうなの?
以上の4つの条件に当てはまった上で、収入が厚生労働大臣の定める最低生活費に満たない場合、生活保護の受給が適用されます。最低生活費については後で詳しく説明しますが、まずは申請の前に4つの条件に該当しているか確認してみてください。
給与収入や年金があると、受給できない?
上でも少し触れましたが、収入があっても生活保護の対象となる可能性はあります。生活保護が受給されるかどうかの基準は、「最低生活費」が目安となります。
そのため収入が、最低生活費に届いていない場合は受給が可能です。具体的には、最低生活費から収入を引いた額が、受給額となります。
病気などで長時間働けない方や、年金だけでは生活できない方は、収入と以下で説明する最低生活費を照らし合わせてみましょう。
<関連記事>:年金を担保にお金を借りる!年金担保貸付制度とは?
生活保護で貰える金額はいくら?
生活保護の受給は、最低生活費が基準となる
生活保護を受給するには、最低生活費が基準になると上でも説明してきました。この最低生活費は統一した基準がある訳ではなく、居住地や年齢、世帯人数によって差があります。
最低生活費を算出するには、まず居住地の等級を知る必要があります。地価水準で等級が決まるため、東京や大阪、名古屋などのなかでも栄えている市や区は、1級地-1という一番上のランクに振り分けられます。
<外部の関連サイト>:お住まいの地域の級地を確認│厚生労働省
この居住地の等級や世帯人数・年齢に連動する形で、最低生活費が決まります。最低生活費は、原則として以下のように算出されます。
- 最低生活費 = 生活扶助(第1類 + 第2類) + 住宅扶助
生活扶助は生活費、住宅扶助は住宅費のことです。生活扶助は食費や被服費などの第1類と、水道光熱費などの第2類に分けられます。
生活扶助の第1類は、世帯で構成される家族の分だけ加算し、世帯の人数に「逓減率」を掛けることで調整します。この生活扶助の第1類・第2類、住宅扶助の金額が、居住地の等級・世帯人数・年齢によって決定します。
では実際に、厚生労働省の生活扶助基準額の算出方法を基に、最低基準額を計算していきます。
<例:東京都23区内に住む26歳男性で単身世帯の場合>
東京23区内は1級地-1に該当し、その地域の単身世帯の逓減率は1.0です。
- 生活扶助(第1類)=47,420 × 1.0 = 47,420円
生活扶助(第2類)= 28,890円
住宅扶助= 53,700円
最低生活費は生活扶助と住宅扶助を合わせて、130,010円となります
※令和元年10月の基準を基に、新基準額の算定方式にて計算をしています
つまり東京23区内に住む26歳の男性の場合だと、最低生活費は130,010円です。この最低生活費を基に、収入や適用加算に応じて給付額が変動します。収入や適用加算については、以下で詳しく説明します。
障害者や母子家庭世帯は、必要に応じて加算される
母子家庭世帯や障害者の人は、生活扶助と住宅扶助にプラスして加算額があり、それらをトータルした額が最低生活費として認定されます。加算額も、居住地の等級によって異なります。
以下は、障害者と母子家庭世帯の加算額をまとめたものです。
障害者 | 1級地 | 2級地 | 3級地 |
---|---|---|---|
身体障害者程度1・2級 | 26,810円 | 24,940円 | 23,060円 |
身体障害者程度3級 | 17,870円 | 16,620円 | 15,380円 |
母子家庭世帯 | 1級地 | 2級地 | 3級地 |
子供1人 | 20,300円 | 18,800円 | 17,500円 |
子供2人 | 24,200円 | 22,400円 | 20,800円 |
3人以上の子供1人につき加える金額 | 2,300円 | 2,200円 | 2,000円 |
母子家庭世帯で子供が3人以上の家庭には、子供2人の加算額に2,300円、2,200円、2,000円がそれぞれ人数分加えられます。たとえば1級地で子供が3人いる母子家庭世帯の場合、24,200円+2,300円=26,500円 が加算額となります。
また母子家庭への加算とは別に、子どもがいる世帯には「児童養育加算」があります。金額は3歳未満の児童1人につき11,820円、3歳以上18歳以下で10,190円、第3子以降の小学校修了前の場合だと11,820円が支給されます。
パターン別の受給金額シミュレーション
これまで最低生活費や加算額について説明してきましたが、では実際の受給金額はどうなるのでしょうか?以下では、世帯別・居住地別に受給金額のシミュレーションを行ったので、参考にしてみてください。
<東京都23区内に住む26歳男性で単身世帯の場合>
先ほどの26歳男性に、アルバイトによる収入が8万円ある場合の、受給金額を計算していきます。
- 生活扶助(第1類)= 47,420 × 1.0 = 47,420円
生活扶助(第2類)= 28,890円
住宅扶助= 53,700円
→ 最低生活費= 130,010円
ここからアルバイトによる収入の8万円を引くと、以下が受け取れる生活保護費となります。
130,010円(最低生活費)-80,000円(収入) = 50,010円(生活保護費)
このように収入と支給額を合わせた金額が、最低生活費になるよう生活保護費が調整されます。
<函館市に住む29歳の母親と4歳の子供の母子家庭世帯の場合>
函館市は2級地-1に該当し、その地域の2人世帯の逓減率は0.8548です。
- 生活扶助(第1類)=(43,770(母)+41,190(子))× 0.8548 = 72,623円
生活扶助(第2類)= 40,660円
住宅扶助= 45,000円
母子世帯加算= 18,800円
児童養育加算= 10,190円
ここから計算される最低生活費は、以下のようになります。
最低生活費 = 72,623 + 40,600 + 45,000 + 18,880 + 10,190 = 187,293円
母親にパートによる収入が月10万円あるとすると、生活保護費は以下のようになります。
最低生活費 – 収入 = 187,293 – 100,000 = 87,293(生活保護費)
このシミュレーションでは、4歳の子供がいる想定で計算していますが、子供が小学校や中学校に上がるにつれ、受給額も増えていきます。また10月から4月の冬季期間は、地域によっては生活扶助に上乗せして冬季加算があります。
<沖縄県宜野湾市に住む63歳女性で単身世帯の場合>
沖縄県宜野湾市は、3級地-1に該当します。またこの女性には、年金等による収入はないものとします。
- 生活扶助(第1類)= 40,740 × 1.0 = 40,740円
生活扶助(第2類)= 27,690円
住宅扶助= 40,900円
→最低生活費= 109,330円
女性には収入がないため、最低生活費の109,330円がそのまま支給されます。
<外部の関連サイト>:生活扶助基準額の算出方法│厚生労働省
生活保護を受給する流れ!注意点とは?
生活保護の申請の流れ
生活保護の申請窓口は、居住地域にある福祉事務所の生活保護担当課です。福祉事務所がない町村に住んでいる方は、町村役場で手続きできます。
申請までの流れとしては、最初に希望者は窓口で事前相談を行います。この段階で生活保護受給の条件に満たしているか、生活保護以外の制度を活用できないか等の検討が行われます。
申請が終わると、受給の可否を決める調査を生活保護の担当者が行います。調査とは、生活状況を把握するための家庭訪問や、預貯金や不動産などの資産調査を指します。
原則として申請をした日から14日以内に、受給の可否の回答が来ます。
<関連記事>:コロナでお金がもらえる?家計が苦しい方への給付金まとめ
受給中は収入状況の報告が必要
生活保護は、受給したら終わりではありません。受給中は収入の状況を、毎月ケースワーカーに申告する義務があります。
また子供が就職したり、相続などで資産を得た場合は、届け出を出します。その他にも生活保護の受給中には、定期的にケースワーカーが自宅に訪問してきます。
場合によっては、抜き打ちで家庭訪問をされるケースもあります。不正受給にならないよう、収入や資産、世帯員の構成や状況が変わった時は、届け出を怠らないようにしましょう。
車の処分が義務付けられる場合もある
生活保護を受給する場合は、資産を処分する必要があります。車や装飾品など、お金になるものがあれば、資産の整理をしましょう。
ただ体に障害があり、車なしでは通勤が難しいというケースでは、車の保有が認められ可能性があります。生活にどうしても車が必要な方は、福祉事務所の担当者に相談してみましょう。
生活保護費を借金の返済にあてることは原則不可
借金があっても生活保護を利用することはできますが、生活保護費を借金に充てることは不可能です。もし生活保護費を、借金の返済に使っていたことが発覚すれば、最悪の場合だと生活保護費の支給を止められます。
また生活保護を受給している最中は、新たな借り入れをすることも不可です。借金をした場合、そのお金は収入として扱われるため、生活保護の減額や受給停止といった事態になることもあります。
<関連記事>:お金がないけど借金返済したい!どんな方法がある?
他にも生活保護受給者は、クレジットカードを作ることもできません。国からの援助である生活保護は、クレジットカードの申込条件である安定した収入とはみなされないので、注意しましょう。
以上、生活保護について解説しました。生活保護は、不正受給などマイナスなイメージを持たれることもありますが、最低限の生活を保障することを目的に作られた制度です。
生活保護の利用条件に当てはまる場合は、生活を立て直すために利用を検討してみましょう。
この記事のまとめ |
---|
|
<監修者コメント>
生活保護は生活が困窮した時には救済となるでしょう。受給条件が厳しいので、「どうせ生活保護がもらえるわけない」と自己判断して相談に行かない人もいるかもしれません。
しかし、相談を通して活用できる制度や資産の存在が明らかになることもあることでしょう。公共機関の窓口での相談は無料なので、ぜひ有効に活用してください。