生活保護を受ける際には、不正受給に注意が必要です。「これくらい大丈夫だろう」と軽く考えていることが、不正受給に該当してしまうケースもあるのです。
そこで今回は、生活保護の不正受給について徹底解説します。不正受給にあたる具体的なケースや、バレた場合のペナルティーについて解説します。
目次
生活保護の不正受給とは?
生活保護の不正受給の件数は?
生活保護の不正受給とは、収入があるのに「収入なし」と届け出るなど、事実と異なる内容を申請したり、不正な手段を使って生活保護費を受け取ることです。以下は、2013年から5年間の不正受給件数・金額の推移です。
<出典>:生活保護制度について | 厚生労働省
平成29年(2017年)度の不正受給発生件数は39,960件で、不正受給被害金額はおよそ155億3千万円にのぼります。この数字だけをみると、不正受給が多発しているように感じますが、生活保護費の総額から考えると、その割合はあまり高くないと言えます。
平成29年(2017年)度の生活保護費の総額は、3兆8404億円です。よって不正受給被害金額が、全体に占める割合は0.4%程度です。
また平成29年3月の生活保護受給世帯数164万1532世帯に対し、不正受給件数は39,960件で、全体の2.4%程度となっていますです。生活保護と言えば、不正受給と結び付けられる風潮がありますが、全体から見ると不正受給の割合はわずかで、生活保護費の大部分は正しく支給されていると言えます。
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不正受給の内容で最も多いのは、収入の無申告
不正受給と聞くと、車やマンションを買うなど、派手にお金を使っているイメージを浮かべる人もいるでしょう。では不正受給とは具体的に、どのような事例を指すのでしょうか?
以下の表は、平成29年度の不正受給の内訳です。
不正受給の内訳のうち、最も高い割合を占めているのが、46.9%の「稼働収入の無申告」です。その他を除くと次に多いのは、「各種年金等の無申告」で16.9%、「稼働収入の過小申告」で12.8%と続き、収入の申告に関する上位3つの不正で全体の8割近くを占めています。
生活保護費は、収入に応じて増減されるため、たとえ少額であっても、年金を含むすべての収入を福祉事務所へ申告しなければなりません。そのため収入があること、または収入が増えたことを申告せずに保護費を受け取ってしまうと、不正受給となってしまうのです。
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悪質な不正受給はごく一部
悪質な不正受給がはびこっているなら、行政機関にバレないよう細工をしていると考えるのが自然でしょう。続いては、不正受給が見つかるキッカケを確認していきます。
平成29年度の不正受給発見の契機は、次の通りです。
不正受給発見の契機 | 件数 | 割合 |
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照会・調査 | 36,013 | 90.1% |
通報・投書 | 1,684 | 4.2% |
その他 | 2,263 | 5.7% |
合計 | 39,960 | 100% |
不正が発見されるきっかけのうち、全体の約9割を占めているのが「照会・調査」です。というのも福祉事務所は、生活保護受給者の課税調査や年金調査を定期的に行っており、各種収入状況をしっかり把握しています。
そのため調査時に次のようなケースがあると、不正受給としてカウントされるのです。
不正受給の例 |
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一般的に悪質な詐欺というイメージが強い生活保護の不正受給ですが、実際には収入の申告漏れによる不正受給がほとんどで、悪質なケースはごく一部とされています。
暴力団などによる不正受給など悪質なケースもある
ただし不正な手段で保護費を受け取る、極めて悪質なケースがあるのも事実です。たとえば悪質な不正受給には、以下の事案が挙げられます。
悪質な不正受給の事案例 |
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暴力団員は生活保護を受けられませんが、身分を隠しながら受給すると、詐欺の容疑で逮捕されます。
<外部の関連サイト>:暴力団員を隠し生活保護費150万円不正受給│産経新聞
また生活保護費受給者による不正受給ではなく、生活保護受給者の保護費を不当に搾取する、「生活保護ビジネス」も問題となっています。生活保護ビジネスとは、ホームレスなどの生活困窮者に生活保護を申請させ、住居や食事を与える代わりに、支給された保護費の大部分を家賃や食費として徴収するビジネスのことです。
しかし生活困窮者へ提供されるのは、極めて劣悪な家と粗末な食事となっています。最低限度の生活水準とはいえない生活を強いられるにもかかわらず、生活保護費の大半を不当に奪われてしまうのです。
かなり違法性の高いビジネスであるものの、生活保護費受給者側が被害を訴えない限り、明るみに出るケースは少ないのが実情です。
<外部の関連サイト>:生活保護費横領容疑、会社社長再逮捕へ│朝日新聞
生活保護の不正受給がバレたらどうなる?
意図的でない場合、不正受給分を返還すれば罰則なし
収入の申告ミスなどで、不正受給が意図的でないと判断された場合には、生活保護法第63条が適用されます。
生活保護法第六十三条
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、(中略)その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。引用元:生活保護法第六十三条
未申告で受け取っていた保護費から必要経費や基礎控除、未成年者控除などが差し引かれ、残った不正受給分を返還金として行政に納めることとなります。なお不正受給分を返還すれば、それ以外の処罰は受けません。
悪質な不正だと、返還金と合わせて増額して徴収
意図的であり、悪質な不正受給と判断された場合には、生活保護法第78条に従って処分されます。
生活保護法第七十八条
不実の申請その他不正な手段により保護を受けたときは(中略)、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。引用元:生活保護法第七十八条
つまり悪質な場合には、不正受給分の返還金に加えて、徴収金を行政に収める必要があります。なお上乗せされる徴収金は、悪質の度合いによって金額が異なり、最大で返還金の1.4倍です。
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詐欺罪で告訴されるケースもある
さらに悪質であると判断された場合には、前項で説明した生活保護法の第78条が適用された上に、第85条に従い詐欺罪で警察に告訴されます。
生活保護法第八十五条
不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。ただし、刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは、刑法による。引用元:生活保護法第八十五条
なお自治体によって対応は異なりますが、一般的に200万円を超えるような高額の不正受給をすると告訴されるケースが多く、最悪の場合、懲役刑となる可能性があります。生活保護受給者が逮捕・拘留された時点で、生活保護は停止となります。
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生活保護の不正受給にならないためには?
働いたことによる収入を報告する
生活保護受給中は、世帯全員の働いたことによる全ての収入を、必ず届け出るようにしましょう。たとえばボーナスのや、高校生の子どものアルバイト代の申告も必須となっているので、見落とさないよう注意して下さい。
なお高校生がアルバイトで収入を得る場合には、基礎控除や未成年者控除、必要経費に加えて、修学旅行費なども収入額から除外されるケースがあります。次の例で、詳しくみていきましょう。
- <事例>
母子家庭で、生活保護費10万円を受給している世帯の高校生が、月にアルバイト代5万円の収入がある場合
・交通費(必要経費)…320円×15日間=4800円
・基礎控除額…18,400円
・未成年控除額…11,400円
4,800 + 18,400 + 11,400 = 34,600円 (必要経費・税金)
収入認定額…5万円(アルバイト代) – 34,600(必要経費など) = 15,400円
よって生活保護費は、10万円-15,400円=86,400円に減額される

<外部の関連リンク>:あなたの〇活応援します(p10) | 厚生労働省
上で触れたように、収入認定額の15,400円を修学旅行費などにあてる場合は、収入として認定されません。以上の通り、高校生がアルバイトで5万円の収入を得た場合、収入認定額は15,400円です。
ですが、これを修学旅行費や学習塾の費用・大学の受験料などに充てれば、収入として認定されず、生活保護費の減額はされません。その場合には当初の生活保護費10万円を、受給し続けることが可能です。
ただし高校生のアルバイト代を申告しなかった場合には、収入認定額に相当する保護費の返還を求められるので注意してください。収入は少額であっても、必ず申告するようにしましょう。
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年金や仕送りなど、給与以外の収入も忘れずに申告する
生活保護受給中は、世帯全員の給与以外の収入も忘れずに届け出るようにしましょう。給与やボーナス以外の収入の例は、次の通りです。
給与やボーナス以外の収入例 |
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上記のような収入を期日までに申告しなかった場合、不正受給となるので注意してください。
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世帯員の構成が変わった時も申告をする
生活保護受給中、世帯員の状況に変化があった場合には必ず届け出るようにしましょう。世帯員の状況の変化に該当する例は、次の通りです。
世帯員構成の変化例 |
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世帯の状況が変化したことを届け出ず、過分に保護費を受け取っていた場合、不正受給となってしまいます。また世帯の状況の変化によって保護費が増額される場合、遡って受給できるのは2カ前までとなりますので注意してください。
以上、生活保護の不正受給について解説しました。生活保護の不正受給は、全体から見るとごく一部で、福祉事務所も不正を見抜くために、定期的な調査を行っています。
生活保護は生活困窮者に対して、必要なサポートを行う制度であり、一人一人が正しい認識を深めることが重要です。
この記事のまとめ |
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