日本は世界と比べても、ひとり親世帯の貧困率が高い点で問題視されています。ひとり親世帯の中でも、母子家庭の貧困率が特に高いです。
とはいえこの状況を改善するため、政府は母子家庭に向けて複数の支援を実施しています。ただ母子家庭の母親が、こうした支援策を知らないケースも多いです。
今回は母子家庭が貧困に陥る原因やその問題点を説明し、母子家庭に向けた支援策を紹介します。
日本の母子家庭の貧困率は高い!その原因は?
世界的に見て、日本の母子家庭の貧困率が突出して高い
日本では貧困な母子家庭が多く、2018年時点でその相対的貧困率は51.4%です。相対的貧困率とは一言でいうと、その国の生活水準に比べて困窮した生活をしている人の割合の事です。
つまり母子家庭の半分以上の世帯が、普通の人に比べて困窮した生活を送っています。
<関連記事>:相対的貧困率とは?日本の貧困問題を考える!
同年度のふたり親世帯の貧困率は5.9%なので、それに比べると母子家庭の貧困率はかなり高いです。さらに日本の母子家庭の貧困率は、世界的に見ても突出して高いと言えます。
<出典>:相対的貧困率の国際比較(2010年)|内閣府
(子どもがいる)大人1人世帯の貧困率はOECD諸国(韓国を除く33ヵ国)の中でも、日本が最下位です(2014年時点)。ここでいう大人1人世帯は必ずしもひとり親世帯とは限りませんが(祖父と子どもで済んでいるケースも含む)、ほとんどが母子・父子家庭の世帯です。
日本ではひとり親世帯の約9割が母子家庭なので、大人1人世帯の貧困率の多くは母子家庭が占めていると言えます。
母子家庭の貧困率が高い原因1:給与が少ない
母子家庭が貧困に陥る原因の一つ目は、母親の給与が少ないためです。2019年時にはふたり親世帯の平均年収が734万円なのに対し、母子家庭の平均年収は299万円です。
どちらも子育てに掛かる費用は同じなのに、ふたり親世帯の年収は母子家庭の2.5倍でその差は大きく開いています。母子家庭の年収が低いのは、主に以下の3つが原因として考えられます。
母子家庭の年収が低い原因 |
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<1.母親の43.8%が非正規雇用者>
母子家庭の年収が低いのは43.8%の母親が非正規で働いており、高収入を得られません。日本では正規・非正規雇用者の間に賃金格差があり、正規に比べて非正規の時給は低いです。
最低賃金の引き上げなどで政府も格差解消に力を入れていますが、いまだに正規の賃金は非正規の約1.5倍です。母子家庭の母親はスキルがない、長時間働けないなどが理由で、非正規として雇われやすく賃金が低くなるケースが多いです。
<外部の関連サイト>:同一労働同一賃金の取組と賃金の動向(2020年)|内閣府
<2.子育てで労働時間が限られる>
ふたり親世帯と違って母子家庭の母親は、1人で子育てをするケースが多いです。子育てをすれば仕事に時間を割けず、労働時間は限られます。
たとえば幼稚園児の子どもだとお迎えをする必要があり、母親は夜遅くまで働けません。このように労働時間が短くなれば、結果的に年収も低くなります。
<3.日本では男性の方が稼ぎやすい>
母親が貧困に陥る原因の一つとして、日本では男性の方が稼ぎやすい点も挙げられます。
OECDの調査(2017年)によると日本の男女賃金格差はG7の中で最下位で、正社員の女性でも同じ正社員の男性の76%程しか稼げません。こうした賃金格差があれば、母子家庭の母親が十分に稼ぐのは難しいです。
母子家庭の貧困率が高い原因2:養育費を貰っていない
母子家庭が貧困に陥りやすい原因の二つ目は、養育費を貰っていない点です。日本で養育費を受けている母親は、約24%しか居ません(2016年ひとり親世帯等調査)。
そもそも半数以上の母親が養育費を貰った事がなく、半数以上の家庭が養育費の取り決め自体をしていません。母親が取り決めをしない理由には、「相手と関わりたくない」、「相手に支払う能力がないと思った」が多く挙げられます。
ただでさえ低収入の母親が多いのに養育費が貰えない、または受け取れなければ、大半の母子家庭が貧困に陥りやすくなります。先進国と比べても日本の養育費受給率は低く、養育費制度が十分でないと問題視されています。
こうした日本の状況は、なるべく早い段階で改善されるべきです。
母子家庭の貧困率が高い原因3:教育費が高い
教育費が高すぎるのも、母子家庭が貧困に陥る原因の一つです。日本の家計に占める高等教育の負担の割合は、OECD諸国の中で2番目に高いです(2020)。
実際に69.4%の親が子どもの教育費負担を重いと感じており(2020年ソニー生命調査)、大学進学の教育費(下宿費、住居費は除く)は1世帯の可処分所得の5割以上を占めます。貧困層でない家庭でも教育費用の負担が重いと感じるなら、母子家庭に掛かる負担はさらに重いはずです。
以上、母子家庭が貧困に陥る原因を3つ説明しました。これら複数の原因により、相対的に貧困な母子家庭は多いです。
こうした母子家庭の貧困を「自己責任」と考える人も、世の中にはいます(特にネット上では、そういった意見をよく見かけます)。ですが上で述べた通り、母子家庭の貧困率が高いのは、日本の社会構造が原因と考えられます。
<関連記事>:子育てのお金が足りないけど対策は?使える支援制度は?
母子家庭の貧困における問題点は?
1. 普通の人が送るような生活が出来ない
貧困な母子家庭は一見すると、普通の家庭に見えるケースが多いです。ですが実際には、以下のような見えづらい貧困生活を送っています。
貧困生活の具体例 |
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このように周囲から見えづらい貧困であり、また自身が声を上げないケースもあるために、必要な支援が中々届かきません。
2.虐待率が高くなるリスクも
虐待率が高くなるリスクがある点も、母子家庭の貧困における問題点の一つです。貧困率が上がると虐待率も上がるケースは多く、虐待と貧困は関連していると言われています。
少し古いデータですが以下の、虐待が行われた際の家庭の状況(2005年)のランキングを見て下さい。
虐待が行われた時の家庭状況 |
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<出典>:平成20年版青少年白書 図26 虐待が行われた家庭の状況|共生社会政策統括官
ランキングでは虐待が行われた際の家庭の状況として、ひとり親家庭が一番多いです。母子家庭が貧困に陥いり、親族・近所の支援も受けられない場合、特に虐待が起きやすいと思われます。
3.子どもに教育機会が与えられない
貧困な家庭だと教育機会が与えられにくいのも、母子家庭における問題点です。貧困な家庭で育った子どもは経済的理由で進学を出来なかったり、塾や公文などの学校外教育を受けられないケースが多いです。
さらに母子家庭の場合、母親が忙しくて子どもの勉強を見てやれないために、子どもに勉強する習慣がつかないケースも多いです。十分な教育を受けられないと、子どもの学力は低くなる傾向にあります。
実際に世帯年収と子どもの学力の調査では、年収が低い家庭の学力は低くなっています(2013年文部科学省の調査より)。
こうした教育格差から貧困層の子どもは十分な学力を身に付けられず、高校や大学へ進学することが難しくなります。
4.子どもが貧困に陥りやすい
上で述べたように貧困な家庭で育った子どもは、栄養のある食事が与えられず、虐待を受ける可能性が高く、また高等教育を受けるのが難しいです。このため大人になってから収入の高い仕事に就けるチャンスも乏しく、親と同じく貧しい生活を強いられる可能性が(一般家庭で育った子どもに較べて)高くなります。
このように親から子どもに貧困が続くことを、「貧困の連鎖」と言います。お金がないために学習や体験活動の機会が少ないと、子どもの学習・身体能力の発達に悪影響を及ぼし、「貧困の連鎖」が起きやすいです。
ひとり親世帯(特に母子家庭)に向けた政府による生活・就業支援策は?
ここまで母子家庭が貧困に陥る原因や、その問題点を説明しました。以下では、ひとり親世帯(特に母子家庭)に向けた、政府による生活・就業支援策を紹介します。
子育て・生活支援
政府はひとり親世帯に向けて、主に以下のような子育て・生活支援を実施しています。
制度 | 制度内容 | 対象 | 料金 |
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母子・父子自立支援員による相談、支援 | ひとり親家庭の生活一般や求職活動の悩みなどを相談出来る(各自治体実施) | ひとり親家庭及び寡婦 | 無料 |
ひとり親家庭等日常生活支援事業 | 病気などで子どもの世話を出来ない場合に、家庭生活支援員に手伝って貰えるサービス(各自治体実施) | 母子家庭、父子家庭、寡婦(子どもが病気でない場合に限る) | 無料から最大でも450円掛かる(所得に応じて異なる) |
ひとり親家庭等生活向上事業 | ひとり親家庭に向けて、講習会や情報交換の場を設けるサービス(各自治体が実施) | ひとり親家庭等 | 実施されるサービスに応じて変わる |
子どもの生活・学習支援 | 放課後倶楽部の終了後に学習支援や食事提供をする(各自治体が実施) | 生活困窮世帯の子ども(対象年齢は自治体によって異なる) | 無料 |
今回は表の中でも、「ひとり親家庭等日常生活支援事業」について紹介します。
ひとり親家庭等日常生活支援事業とは、ひとり親家庭および寡婦(「かふ」、夫の死別した独身女性親のこと)が子どもの世話を見られない場合に、家庭生活支援員が子育てや家事を代行するサービスです。このサービスは以下の場合に限り、利用可能です。
ひとり親家庭等日常生活支援事業を受けられる場合 |
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ふたり親世帯だと急用以外ではこのサービスを利用できませんが、ひとり親世帯の場合、小学生以下であれば定期的に利用できます。利用可能時間は自治体によってさまざまで、22時まで受け付けている市もあります。
料金は生活援助と子育て支援でそれぞれ費用が掛かる場合と、そうでない場合があります。例えば千葉市だと児童扶養手当を支給できる水準の世帯で一回につき生活援助で150円、子育て支援で70円掛かります。
就業支援
政府はひとり親世帯や母子家庭に向けて、以下のような就業支援を行なっています。
制度 | 制度内容 | 対象 | 料金 |
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マザーズハローワーク事業 | 母親に総合的な再就職支援を実施するハローワーク | 子育て中の女性、男性、子育の予定がある女性 | 無料 |
母子家庭等・就業自立支援センター事業 | ひとり親に対して、就業について相談の場や講習会を設ける | 母子家庭の母親等、母子・父子家庭の児童 | 無料 |
自立支援教育訓練給付金 | 資格所得に向けた教育訓練講座を修了すると、その経費の60%が支給される | 20歳未満の子どもを持つ、母子・父子家庭の母・父で、所得等の条件を満たす人 | 資格取得にかかる費用の4割は自己負担 |
これらの中でも取りわけ分かり辛い、「自立支援教育訓練給付金制度」について説明します。
自立支援教育給付金制度とは母子・父子家庭の親のスキルアップのために、資格所得に向けた講座費用の6割を支援する制度です。この制度は以下の条件を全て満たした人に限り、利用可能です。
自立支援教育訓練給付金制度利用の条件 |
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これらの条件を満たした人は支給申請をすれば、対象とされる講座の資格取得費用の6割が給付されます。ただし給付金が受け取れるのは、講座終了後に限ります。
養育費に関する支援
先ほど述べたとおり、日本の養育費の受給率は世界的にみても低いです。そのため政府は以下のような養育費に関する支援を行って、ひとり親世帯の親にかかる精神的負担を軽減しています。
<自治体が実施する養育費相談支援センター>
養育費相談支援センターでは、ひとり親家庭の養育費に関する相談を自治体ごとに受け付けています。自治体によっては弁護士による相談や、養育費請求の手続きを手伝ってくれます。
夜間や土日にも営業しているので、仕事で忙しい方も利用しやすいサービスです。
<養育費に関する裁判費用の貸付(母子父子寡婦福祉資金貸付金制度で借りられる)>
養育費未払いに対して裁判を行う場合、多額の費用が必要になります。「養育費に関する裁判費用の貸付」とはこの裁判に掛かる費用として、生活資金の12ヶ月分(約123万円)を国が一括で貸してくれる制度です。
裁判費用の貸付けの手続きは、母子父子寡婦福祉資金貸付金制度を通して行えます。この貸付金制度については、後ほど詳しく説明します。
<外部の関連サイト>:養育費の確保p2 |厚生労働省
ひとり親世帯(母子家庭)に向けた、経済的支援は?
政府が実施する経済的支援
政府はひとり親世帯に向けて、主に以下の3種類の手当や制度を設けています。
<子育てに関する手当>
制度 | 制度内容 | 対象者 | 支給額 |
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児童手当 | 児童を育てる保護者に、国が養育費を支給 | 中学校卒業まで(歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している人 | 5,000円~15,000円 所得制限や児童の年齢によって、金額が決まる |
児童扶養手当 | 児童を育てるひとり親に、国が養育費を支給 | 0~8歳到達後の最初の3月31日までの子どもを持つ、ひとり親 | 支給額は毎年の物価に応じて変動 所得によって支給額が決まる |
児童育成手当 | 児童を育てるひとり親に、東京都が養育費を支給 | 0~8歳到達後の最初の3月31日までの子どもを持つ、ひとり親 | 児童1人につき月額13,500円 |
<出典>:児童関連手当一覧|世田谷区
ひとり親で多くの人対象者に含まれるのは、「児童扶養手当」です。児童扶養手当とは、0~18歳到達後の最初の3月31日までの子どもを持つ、ひとり親に向けて国が養育費を支給する制度です。
支給額は1人目で43,160円、2人目の加算額で10,190円、3人目以降の加算額で6,110円です。ただし全て親にこの金額が支給される訳ではなく、所得によっては一部が支給されたり受給不可のケースがあります。
<生活保護>
上のような子育て手当てを利用してもお金が足りない方は、「生活保護」の利用を検討するのも良いでしょう。生活保護とは貧しい生活を送る家庭に、最低限必要な生活費の不足分を支給する制度です。
とはいえ働けない事や他の制度を利用できない事など受給条件が厳しく、相当お金に困っている人に限り利用可能です。
<関連記事>:生活保護の金額はどの位?いくら貰えるの?【FP監修】
<母子父子寡婦福祉資金貸付制度>
「母子父子寡婦福祉資金貸付金制度」とは、ひとり親世帯で生活・子育て・就業資金が必要な時に、国がその資金を融資する制度です。利用可能な対象者は、20歳未満の子どもを持つひとり親家庭の母親・父親または寡婦です。
貸付けしてくれる資金は事業開始資金や就学資金、生活資金、住宅資金など複数あります。金利は保証人無しだと年率1.0%で、保証人が有りだと無利子となります。
この制度は近所の区・市役所にある福祉担当窓口で、申し込みができます。
<外部の関連サイト>:母子父子寡婦福祉資金貸付金制度|男女共同参画局
政府が実施する教育費用に関する支援
政府が実施する教育費用に関する支援は、以下の通りです。
制度 | 制度内容 | 対象 | 自己負担の有無 |
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幼児教育・保育の無償化制度 | 3歳児〜5歳児の幼稚園・保育園・認定こども園の利用料が無償化される | 3歳〜5歳児のすべての子ども | 基本的に無し(※高額だと一部、自己負担有り) |
就学援助制度 | 貧困な家庭に対して、学用品費や、給食費を補助する | 貧困な生活を送っている家庭(自治体によって基準が異なる) | 無し |
高等学校等就学支援金制度 | 子供の授業料を一部支給 | 日本の高等学校や高等専門学校に通う生徒で、一定以上の所得がない生徒 | 一部自己負担有り |
この中でも特に分かりづらい、「高等学校等就学支援金制度」について説明します。高等学校等就学支援金制度とは、高校の授業料を国が一部負担する制度です。
高校等に通う学生で日本に住んでいれば、この制度を利用できます。ただし以下のような人は、この制度を利用できません。
高等学校等就学支援金制度を利用できない例 |
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なお年収の制限については家庭の状況によって変わるため、受給を希望する方は子どもが通っている学校に相談してください。
民間が実施する経済的支援
民間が実施する経済的な支援の中でも、有名なのは「こども食堂」と「民間学童保育」です。こども食堂とは十分な食事を取れない親子に対して、安い価格で食事を提供するコミュニティのことです。
子ども食堂は全国に約3700店舗ほど展開されており、多くの貧困家庭で利用されています。お金に困っている方や時間がなくて子どもに食事を作れない方は、近所のこども食堂を利用するのも良いかもしれません。
また母子家庭の母親で仕事が忙しい方で、終了時間が早い公立学童に子どもを預けるのが難しい人も多いと思います。そのような方には民間学童保育の利用をオススメします。
民間学童保育の場合、比較的遅い時間帯まで子どもを預けられる場所が多く、加えて学習プログラムなどのサービスも充実しています。
民間なので値段は多少高くなりますが、母子家庭に向けて比較的安い価格で提供しているケースも多いので調べてみましょう。
以上、母子家庭の貧困率が高い原因やその問題点について説明し、貧困に向けた政府・民間による支援を紹介しました。読んでみて初めて知った支援も、多かったのではないでしょうか?
これを機に利用可能な公的制度を使って、家庭にかかる負担が軽減して見るのも良いかもしれません。
この記事のまとめ |
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<母子家庭の貧困率に関するサイト>
そもそも「貧困」とは?|子どもの貧困ハンドブック
ひとり親家庭等の支援について|厚生労働省
<養育費に関するサイト>:ひとり親家庭の離婚後の収入|内閣府