日本の貧困問題は年々深刻になっており、複数のメディアで度々取り上げられています。政府としても貧困者への支援事業は行っていますが、支援が届かない貧困者が多数いるのが実情です。
そうした政府の支援が行き届きない貧困者に対して、NPO団体や社会的企業が地道な支援活動を行っています。こうした支援活動がある一方、貧困者を追い詰めて利益を取ろうと活動をする組織があります。
こうした活動は、一般的に「貧困ビジネス」と言われています。今回は貧困ビジネスの中身や、その問題点について詳しく解説します。
目次
貧困ビジネスとは?詳しく解説
貧困ビジネスとは?
「貧困ビジネス」とは、貧困層をターゲットに搾取(さくしゅ)する組織的な活動のことです。具体的には、無知・無力な貧困者につけこみ(価格に見合わない)低品質のサービスを売りつけるか労働に見合わない報酬を与えて、不当な利益を得る手法です。
この「貧困ビジネス」という言葉を考案したのが、湯浅誠氏(全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)です。湯浅誠氏は貧困ビジネスを、「貧困層をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス」と定義しています。
<外部の関連サイト>:貧困ビジネスとは何か? 低所得者を喰う者たち|ITmediaビジネスonline
こうした「ビジネス」の事業主は自身の企業を善良だと称しますが、実態は貧困層からお金をむしりとる詐欺行為と言えます。そのため貧困ビジネスの犠牲(ぎせい)となった貧困層は、結果としてより困窮した生活を強いられます。
貧困ビジネスとして挙げられるのは、たとえば以下のような商売です。
貧困ビジネスの具体例 |
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上から分かる通り、ほとんどの貧困ビジネスが、貧困者に住宅を提供する商売を営んでいます。こうした住宅に関連するビジネスばかりなのは、住宅を確保できない貧困層が多く、貧困ビジネスの事業者に対して反抗しづらいためです。
とはいえ、こうした商売を善良的に営んでいる会社・組織も中にあります。貧困者を対象にした活動を行う会社が、全て貧困ビジネスとは言えません。
先に挙げた貧困ビジネスについて、 詳しくは後ほど解説します。
貧困ビジネスのターゲット層
貧困ビジネスのターゲットされる層は、以下の通りです。
貧困ビジネスのターゲットにされる層 |
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上でも分かる通り住宅が確保しづらい人(=住宅弱者)は、貧困ビジネスに特に狙われやすいです。日本の社会構造では住まいを失うと、ホームレスに一気に転落しやすい傾向にあります 。
というのも住居(住所)がないと、求人活動をしたり公共サービスを受けることが難しくなるためです。こうした人の弱みにつけ込んで、住居を提供する代わりに貧困者から金銭や労働を搾取するのが貧困ビジネスです。
貧困ビジネスの具体例1:住み込み派遣社員(作業員)
「住み込み派遣社員」とは文字通り、派遣先の寮や宿泊施設などに住み込んで働く派遣社員のことです。先ほども挙げた通り、こうした派遣社員を募集している会社は、貧困ビジネスを営んでいる可能性があります。
こうした求人の募集内容には、派遣先に向かう交通費は会社が支給するとあります。
ところが現場での福利厚生は少なく、労働環境が劣悪です。また事前の説明と違い、家賃や水道光熱費をガッツリ請求され給与がほぼ無くなります。
仕事を辞めても元の場所に戻るための交通費は支給されないため、仕事を辞めるにやめられません。
貧困ビジネスの具体例2:ゼロゼロ物件
「ゼロゼロ物件」とは敷金・礼金ゼロの賃貸物件のことで、一見すると初期費用を安く抑えられます。こうした物件は貧困者の間で人気ですが、実際には以下のような手段で貧困者からお金を巻き上げています。
ゼロゼロ物件が貧困者から搾取する方法 |
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ゼロゼロ物件の事業主は安い費用で物件を借りられると見せかけて、あらゆる手を使って貧困者から高額な費用を搾取(さくしゅ)します。被害者の中には家賃の支払いを一日遅れただけで、住居から無理やり退去させられたり、住居の持ち物を全て廃棄・売却された人もいます。
これらが違法行為であることは言うまでもありませんが、(立場の弱い)貧困者から抗議がないこと良いことに、事業者は少しでも利益を得ようとします。
貧困ビジネスの具体例3:ネットカフェ
貧困層の中でも初期費用が足りないために、賃貸物件を借りられない人は大勢います。そうした人たちは日中は日雇いで働いて、夜はインターネットカフェに寝泊まりするケースが多く、「インターネットカフェ難民」と呼ばれています。
ネットカフェは必ずしも貧困ビジネスとは言えませんが、貧困者をターゲットに商売することで貧困者に苦しい生活を強いる結果となっています。ネットカフェの宿泊料の相場は1,500~3,000円で、1日単位で見れば他の宿泊施設より比較的安いです。
とはいえ毎日泊まると月々4.5万円から9万円掛かり、賃貸で物件を借りられる値段になります。ネットカフェ難民は1日稼いだ分をその日にネットカフェに費やすため、お金を貯めることができず、ネットカフェ生活から離脱できません。
つまりネットカフェ難民はいつまで経っても、住居を確保できません。ネットカフェ経営者がこうした事態を招いている訳ではないとしても、結果的に貧困ビジネスになっている面はあります。
とはいえネットカフェの中にも「ネットカフェの住所で住民票登録ができる」などと謳い、意図的に住居がない貧困層を集めるケースもあります。
貧困ビジネスの具体例4:無料低額宿泊所(囲い屋)
「無料低額宿泊所」とは貧困層に無料または定額で住居を貸す施設のことで、社会福祉法では以下のように定義されています。
無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準 第1章
第一条 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号。以下「法」という。)第二条第三項第八号に規定する生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業を行う施設(以下「無料低額宿泊所」という。)に係る法第六十八条の五第二項の厚生労働省令で定める基準は、次の各号に掲げる基準に応じ、それぞれ当該各号に定める規定による基準とする。
2018年に実施された厚労省の調査によると、無料低額宿泊所は570施設あり20,133人が利用しています。
上記の通り社会福祉法に明記があるものの、多くの宿泊所では住居と食事の引き換えに、貧困者から多額の金銭を奪っているのが実情です。無料定額宿泊所は以下のような悪質な手口で、入居者を集めます。
宿泊所関係者はまずホームレスに声をかけて自身の宿泊所を紹介し、ホームレスに生活保護を受給させる手続きを行わせます。生活保護を受給させたら「住居・食事の提供するため費用」という名目で、利用者から生活保護費の大半を奪い取ります。
厚生労働省が2015年に発表した調査によると、実際に86%の無料定額宿泊所では、被保護者(=生活保護受給者)の手元に3万円未満の生活保護費しか残らないとの結果が出ています。
悪徳な手法で利益を得る無料定額宿泊所の被害者は多く、貧困ビジネスの中でも特に問題視されています。
<外部の関連サイト>:無料低額宿泊所とは|東京都福祉保健局
貧困ビジネスが無くならない理由は?
ここまで貧困ビジネスの定義や、その実態を紹介しました。こうした貧困ビジネスの問題に対して、(詳しくは後ほど説明しますが)政府や民間でも一定の取り組みをしています。
にも関わらず、貧困ビジネスの被害者は一向に減る気配がありません。以下では、貧困ビジネスが無くならない理由を見ていきます。
1.日本で貧困層が増加している
日本の貧困層が増加しているのが、貧困ビジネスが無くならない理由の一つです。
日本の「相対的貧困率」は先進国35ヵ国中で7番目に高く、年々上昇傾向にあります。相対的貧困率とは簡単に言うと、その国の生活水準を下回る生活をしている貧困な人の割合を言います。
また生活保護受給者(=被保護実人員)は2012年を機に急激に増加し、2018年にかけて50万人ほど増えています。
<出典>:生活保護の被保護者調査(平成30年度)|厚生労働省
とはいえ2020年の厚生労働省の調査結果によると、ホームレスの数は年々減少しており、昔に比べてホームレスを見る機会も減りました 。
その一方でネットカフェ難民や無料低額宿泊所を利用する「見えづらい貧困者」が増加していると、報道するメディアもあります。 つまり今まで見えていた貧困者(ホームレスなど)が貧困ビジネスによって、「見えづらい貧困」へとシフトしている可能性があります。
<関連記事>:相対的貧困率とは?日本の貧困問題を考える!
2.住宅を確保できない人が一定数いる
日本では社会的に立場が弱い(刑務所入所歴、障害・高齢者など)人は入居審査に通りづらく、住居を確保しづらいです。さらに非正規雇用者も給与が低いために貯金が出来ず、仕事を失うと家賃が支払えなくなり、ホームレスに転落するケースも多いです。
住宅と関連する貧困ビジネス(無料低額宿泊所、住み込み派遣など)は、こうした人達を狙って不当に利益を搾取しています。住宅を確保できない人が多いほど、貧困ビジネスが儲かる構造になっています。
3.住居を確保できないと、求人活動や公共サービスを受けるのが難しくなる
上でも述べた通り、日本社会には住宅を確保できない人がおり、こうした人達が貧困ビジネスのターゲットにされます。これに加えて、一時的にせよ住居を失ったため生活の立て直しができず、貧困ビジネスの被害者になる人も多数います。
住居を失った人の生活再建が難しいのは、(先ほども説明しましたが)住所がないと求人活動が上手くいかなかったり、公共サービスを受けられないためです。仕事に就けないため収入を確保することができず、また本来なら受けられるべき公共サービスも利用できません。
これでは生活が一層苦しくなるのは、当たり前です。こうした苦境に追い込まれる人は、先ほど挙げた立場の弱い人達と違って、本来なら「普通の生活」を送る人々です。
ですが普通の人でさえ、ふとしたキッカケで生活が転落し貧困ビジネスの被害者になりうることに、この問題の根深さがあります。
4.福祉事務所・市役所も貧困ビジネス事業者に助けられている面がある
市役所や福祉事務所が貧困ビジネスに助けられている一面があることも、貧困ビジネスが無くならない原因の一つです。市役所(の福祉課)や福祉事務所では、市民の福祉(生活保護・ひとり親支援・老人支援など)に関連する業務を行っています。
とはいえ市の福祉業務は非常に広範囲で膨大な量になるのに、それを担当する職員の数が極めて少なく過酷な仕事です。
ですが貧困ビジネスがあれば、こうした職員の業務負担は軽減されます。というのも無料低額宿泊所や住み込み派遣社員の寮などに生活保護受給者が集まれば、訪問調査などの生活保護業務をしやすいためです。
このように、貧困ビジネスのおかげで市の福祉行政が助かっている一面があり、貧困ビジネスを存続させる要因にもなってます。
5.貧困ビジネス事業者が生活保護の受給支援を行うことも
上でも説明してきた通り貧困ビジネスは、貧困層からお金を搾取して利益を得る商売が多いです。こうした商売は貧困層にお金があるのが前提で成り立ちますが、(当然ですけど)貧困者はそれほどお金を持っていません。
ですが貧困者は生活保護を受給すれば、安定的にお金を得られます。そのため貧困ビジネスの事業主は、貧困者に生活保護を受給の手続きを手伝います(そして、その大半を奪い取ります)。
たとえるなら生活保護費を月10万円支給されて、その内の8万円を事業者に取られるイメージです。普通の人であれば、8万円もお金を取れられるのは絶対に嫌でしょう。
ですが生活保護費の大半を奪われても、収入がゼロよりは嬉しいと思う貧困者もおり、貧困ビジネス事業者に頼る貧困者も数多くいます。
貧困ビジネスにおける問題点は?
1.本来貰えるはずのお金を受け取れない
貧困ビジネスは貧困者からお金を搾取するため、貧困層は本来貰えるはずのお金が手元に残りません。以下の表では貧困ビジネスの種類別に、貧困層がお金を取られる手口を記しました。
種類 | 貧困層がお金を貰えない理由 |
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無料低額宿泊所 | 生活保護費の大半が、住居費として取られる |
住み込み作業員(派遣員) | 給与のほとんどを住宅費・水道光熱費用として取られる |
ゼロゼロ物件 | 仲介費用や違約金などで、多額の費用を取られる |
インターネットカフェ | 日雇いで稼いだお金が、費用が高いネカフェ代でなくなる |
全ての貧困ビジネスで、貧困層が持っているお金のほとんどが取られ、預金もできません。そのため貧困ビジネスの被害者となる貧困層は、貧困から抜け出せなくなる悪循環に陥ってしまいます。
このため政府が貧困世帯への支援策を行っても、(増額した支援の分だけ取られるため)十分な支援を受け取れない可能性まで出てきます。
2.社会的企業との区別がつきにくい
「社会的企業」との区別がつきにくい点も、貧困ビジネスにおける問題点の一つです。社会的企業とは、社会問題の解決を事業目的とししつ収益もあげる企業のことです。
事業そのものから収益をあげている点で社会的企業は、補助金・助成金なしでは運営が成立しないボランティア活動とは異なります。
<外部の関連サイト>:社会的企業 | ウィキペディア
貧困ビジネスが貧困層から搾取する詐欺行為である一方で、社会的企業は貧困問題の解決のために貧困層を支援します。両者の目的が大きく違うのにも関わらず、どちらも貧困層に住まいを与えるビジネスを行なっているため、外見上は見分けが付きづらいのです。
加えて貧困ビジネスの事業主はもちろん自らを社会的企業と自称するため、それに騙されてしまう貧困層も多くいます。さらに両者の区別が付きづらいといことは、政府も貧困ビジネスに対する規制が難しいことを意味します。
厳しい規制を敷くことは難しくありませんが、それだと社会的企業のような善良なビジネスまで締め出してしまうリスクがあるためです。
3.国は余計な財政負担を強いられる
貧困ビジネスが存在するおかげで、国は余計な財政負担を強いられることになります。たとえば悪徳な無料低額宿泊所では、住居人に生活保護を受けさせて、その大半を奪い取ります。
つまり国が貧困層に対して支給した生活保護のほとんどが、無料低額宿泊所の事業主に取られてしまいます。そのため貧困層に十分な支援が届かず、貧困世帯への支援のために国は追加の財政負担を強いられます。
国のお金の元手は国民の税金なので、最終的には国民の税金が上がってしまいます。
貧困ビジネス問題解消のための、政府・地方自治体の対策は?
政府の対策は、無料低額宿泊所に向けてのみ
現時点で政府は無料低額宿泊所に向けた対策しか行っておらず、その他の貧困ビジネスへの規制は地方公共団体が行っています。とはいえ貧困ビジネス自体は明白に違法とも言えず、法的にグレーゾーンな位置付けで運営されています。
さらに貧困ビジネスそのものを規制する法律は存在しないため(2020年12月現在)、政府も簡単には取り締まることが出来ません。ですが貧困ビジネスの中で最も問題視されている無料低額宿泊所に対しては、いくつか政策が取られています。
以下では、その政策の2つを紹介します。
政府の対策1.宿泊所の開設の事前届制
政府が行っている無料低額宿泊所の対策の一つは、宿泊所の開設の事前届出制です。無料低額宿泊所を開くにあたり、2020年4月から事前の届け出制となりました(社会福祉法第69条の第2項)。
同年の3月までは事後届け出制でしたが、悪徳な無料低額宿泊所を見分けるためにも福祉法が改正されました。事前届制なら政府は無料定額宿泊所を事前に把握できるので、監視しやすくなります。
<外部の関連サイト>:無料低額宿泊事業開始の届出等について|千葉市
政府の対策2.無料低額宿泊所の設備・運営基準を変更
上で説明した事前届出制と同時に、無料低額宿泊所の最低基準も変更されました。以下が、無料低額宿泊所の主な最低基準です。
無料定額宿泊所の主な最低基準 |
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<出典>:無料低額宿泊所に法定基準|公明党
個室を用意してプライバシーを保護したり、居室の広さの規定を決めたりなど、貧困者が以前より良い生活を送れるようになりました。基準を満たさない場合は、宿泊所に対して改善・停止命令を出せます(社会福祉法 第71条〜72条)。
政府による規制の問題点は?
上で述べてきた通り、無料低額宿泊所に対して規制が厳しくなったのは2020年4月からです。そのため現時点(同年12月)で悪質な無料低額宿泊所がどのくらい撤退されたのかは、分かっていません。
ですが効果が分かっていなくても、貧困ビジネスを撲滅しようとする政府の試みは評価すべきです。とはいえ厳しく規制すれば運営負担(運営コストなど)が上がり、善良な宿泊所を締め出すリスクがあります。
今後とも政府は社会的企業と貧困ビジネスを見分けて、規制を施行する必要があるでしょう。
各自治体が宿泊所に対して規制を施行
上でも述べた通り政府の他にも各自治体は、貧困ビジネスに対して規制を施行しています。
例えば大阪市では、以下のような規制がされています。
大阪市による無料定額宿泊所の規制 |
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<出典>:貧困ビジネス対策など|大阪市
上の中でも少し分かりづらい1について、補足します。生活保護制度では被保護者に対して、(引っ越しなどで必要な場合に)敷金・礼金などの初期費用も支給されます。
こうした被保護者から、お金を巻き上げようとする事業者が存在します。その場合、初めはゼロゼロ物件だと説明していたにも関わらず、後になって敷金・礼金を請求します。
引っ越し先がこうした悪質なゼロゼロ物件だとわかった場合、大阪市は被保護者に敷金・礼金を支給しないというのが上の趣旨です。一見すると被保護者に厳しい規制に見えますが、悪質なゼロゼロ物件を市場から締め出すための施策と考えられます。
また3については、実際には低額な敷金で借りられるアパートなのにも関わらず、生活保護者から住宅扶助を受け取るために高額な請求する事業者を規制するルールです。
その他にも、さいたま市や京都府など複数の自治体が、無料低額宿泊所に対して規制を検討したり、実際に施行しています。
貧困ビジネス問題を少しでも減らすには?政府・民間が取るべき対策は?
ハウジングファースト型の支援を増やす
「ハウジングファースト」とは住居がない人に対して、施設などに頼らずに、安心して暮らせる住まいを提供しようという考え方です。この考え方に沿った支援を増やせば、住居難民の減少を通じて、貧困ビジネスも相当減らせると思われます。
無料低額宿泊所のような施設で生活していては、貧困者が路上生活(ホームレス)に戻ってしまうリスクが高いです。また貧困ビジネスのような悪質な施設も多いため、貧困層は貧困から中々抜け出せません。
これに対してハウンジングファーストは、住居を確保するまでの過程を手伝うのではなく、先に賃貸アパートの部屋を提供する考え方です。一般・公営住宅などの住居を先に用意すれば、貧困層も貧困から離脱しやすくなり、貧困ビジネスの需要も無くなるでしょう。
自治体の職員数を増やす
先ほども述べた通り、自治体で福祉支援にあたる(生活保護の担当を含め)職員の数が、業務量に対して圧倒的に少ないです。以下の表では多摩地区で生活保護の業務をする職員の、1人あたりの担当者数が記されています。
自治体 | 生活保護世帯数 | 職員数 | 1人当たりの担当数 |
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八王子市 | 7,468 | 64 | 116.7 |
三鷹市 | 2,542 | 27 | 94.1 |
府中市 | 4,067 | 35 | 116.7 |
昭島市 | 1,731 | 17 | 101.8 |
小金井市 | 1,581 | 15 | 105.4 |
東村山市 | 2,470 | 23 | 107.4 |
福生市 | 908 | 10 | 90.8 |
清瀬市 | 1,637 | 14 | 116.9 |
多摩市 | 1,873 | 21 | 89.2 |
あきる野市 | 638 | 8 | 87.3 |
<出典>:ケースワーカー1人当たりの生活保護世帯数(2020年)|山本洋輔・立川市議調べ
上の表では多摩地区にある一部の市の数値を、表記しています。厚生労働省によると職員1人つき80世帯の担当が標準数とされていますが、全ての市がこの数字を上回っています。
中には110世帯を上回る担当を持つ職員もいて、業務内容はかなり過酷です。
職員が適切に公共サービスを提供できるよう、自治体の職員を増やす必要があります。職員が増えれば職員の業務も行き届き、生活困窮者に対して政府や自治体の支援を直接(搾取を受けずに)、より多くに届けることが可能でしょう。
<外部の関連サイト>:生活保護支援 負担重く|毎日新聞
NPO法人への財政支援を拡大
国がNPO法人の財政支援を拡大すれば、貧困層も少なくなり貧困ビジネスの減少に貢献するでしょう。政府による直接的な支援だけでは、貧困層に対して十分なサポートを行えません。
実際にコロナ禍では住宅費の支援金が出されたのにも関わらず、住居を失った人は多く貧困層はより厳しい生活を強いられています。こうした問題を解決するためには、政府が貧困について専門性の高いNPO法人に財政支援し、貧困層を代わりに助けてもらうべきです。
日本は他国と比べても寄附金が少なく、NPO法人は資金調達するのが難しいです。少し古いデータですが2012年の調査によると、はNPO法人が活動を行ううえで苦労している点に、「収入の確保」が最も挙がっています。
<外部の関連サイト>:活動を行ううえで苦労している点 p.70 |日本政策金融公庫論集(2012年8月)
小さな規模のNPO法人は収入が確保できないと活動を継続するのが難しく、規模が大きいと多額の資金が必要になるため、金融機関から融資を受ける必要があります。NPO法人が貧困層を守る社会にするためにも、政府が財政支援や融資規模の拡大をすれば、貧困者に対して今よりも良い支援が行き渡るでしょう。
ここまで貧困ビジネスの中身や、その問題点・対策について説明しました。貧困ビジネスはここ十数年で問題視されて始めているため、それを規制する法律は少ないのが実情です。
ですが、こうしてる間にも貧困世帯は増え続け、貧困ビジネスの犠牲になる人も増え続けています。政府や自治体も、ようやく重い腰を上げて貧困ビジネスの対策に乗り出しましたが、まだ目に見せる成果を出せていません。
貧困者を食い物にする貧困ビジネスが、一日でも早く撲滅(ぼくめつ)されることを期待しています
この記事のまとめ |
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