「グレーゾーン金利」という言葉を聞いたことはありますか?なじみのない言葉で、なんとなく悪いイメージを持っている人が多いかもしれません。
現在は使われていませんが、過去には多重債務の原因とも言われた金利でした。
以下で詳しく説明します。
目次
グレーゾーン金利って何?
グレーゾーン金利には、「利息制限法」と「出資法」という二つの法律が関係します。
順に見ていきましょう。
利息制限法とは?
利息制限法とは、債務者の利益を保護するため、貸金業者が高金利を設定できないように、金利の上限を定めた法律です。
上限金利は借入額に応じて、以下のように定められています。
・元本が10万円未満の場合:年率20%
・元本が10万円以上100万円未満の場合:年率18%
・元本が100万円以上の場合:年率15%
現在の貸金業法では、利息制限法の上限金利を超えた利息は無効となり、債務者が支払う必要はありません。
また利息制限法に違反した場合の、罰則規定はありません。
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出資法とは?
出資法とは、出資金の受け入れや、金利などを規制する法律です。
正式名称を「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」といい、1954年に施行されました。
2000年代は、出資法の上限金利は年29.2%に定められていました。
この金利に違反した金融業者に対しては、10年以下の懲役、もしくは3,000万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。
グレーゾーン金利とは?
グレーゾーン金利とは、「利息制限法」と「出資法」で定められている上限金利の間に存在する、金利帯のことです。
上でも説明した通り、出資法には刑事罰がある一方、利息制限法には罰則規定がありませんでした。
このため利息制限法の上限金利を超えているのに、出資法の上限金利内なら刑事罰は科されないという、法的に見て「灰色の金利」帯が存在しました。
この金利帯が、グレーゾーン金利にあたります。
グレーゾーン金利そのものは法的に見て、微妙な位置づけでしたが、貸金業者が一定の条件を満たせば、グレーゾーン金利での貸し出しは可能とされていました。
こうして貸金業者はグレーゾーン金利での貸し出しを行い(上限29.2%での貸出が一般的でした)、法的にあいまいな状態で利益を得ていました。
グレーゾーン金利は高金利のためキャッシング利用者の負担も重く、返済に行き詰り、多重債務者を生む温床になっていました。
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なぜグレーゾーン金利は認められていたか?
みなし弁済で「合法化」されていた
利息制限法の上限金利を超える金利について、通常なら無効になります。
ですが貸金業法(当時は貸金業規制法)で定められていた、「みなし弁済」という規定が当時は存在ました。
みなし弁済とは、一定の条件を満たしていれば、利息制限法の上限金利を超える利息も有効とみなす、という規定です。
一定の条件とは、たとえば以下です。
・貸出時に契約書を交付すること
・借主が納得して利息を支払っていること
・受け取り証書を交付すること
こうした条件を借主は断ることもできますが、そうすると借入自体ができなくなるため、立場の弱い借主は受けいれざるえませんでした。
こうして本来なら払う必要のない利息も、みなし弁済規定のせいで合法化されていたのです。
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貸金業者の統制という側面があった
グレーゾーン金利には、貸金業者の統制を図るという側面もありました。
貸金業登録を承認した貸金業者に対して、監督官庁は厳しい規制を課していました。
一方でその代償として、グレーゾーン金利によって利息を受けやすくするという恩恵を与えていました。
言わばグレーゾーン金利は、官庁によって黙認されていたわけです。
グレーゾーン金利が廃止された理由と、その後について
グレーゾーン金利が廃止された背景は?
グレーゾーン金利が多重債務者を生み出す要因として、多方面から批判を浴びました。
こうした批判の声に応える形で、みなし弁済規定を違法とする最高裁判決が、2006年1月に出されました。
グレーゾーン金利が最高裁によって明確に違法とされたことを受け、政府は貸金業法に関連する法整備を進めることになりました。
改正貸金業法により、グレーゾーン金利は正式に廃止
2006年12月に「改正貸金業法」が国会で成立し、段階的にその中身が施行されていきました。
2010年6月18日に改正貸金業法が完全施行され、みなし弁済規定が正式に撤廃となり、グレーゾーン金利は廃止されました。
出資法については、上限金利が29.2%から20.0%に引き下げられました。
貸金業法については、利息制限法に違反した際は行政処分の対象になるという規定が、新たに追加されました。
したがって利息制限法を超える金利については、出資法の上限金利20%であっても行政処分が科されることになりました。
例を見ながら確認しましょう。
例えば100万円の貸し付けは、利息制限法で上限金利が15%に定められています。
もしも18%の金利を課した場合、法改正前であれば取引が無効になるだけで、貸金業者に対して罰則は科されませんでした。
ですが改正貸金業法では、行政処分の対象になります。
また20%を超える金利を課した場合は、出資法によって刑事罰が科されます。
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グレーゾーン金利の廃止、利用者から見た影響は?
グレーゾーン金利が廃止されたことは、多方面に様々な影響を及ぼしました。
適用金利が下がったことでキャッシング利用者の負担が軽減し、多重債務者の減少に貢献しました。
また利用者が上限金利超過分の返還を求める、過払い金請求ブームが起きました。
2006年1月に最高裁によって、みなし弁済規定の違法判決が出たのは、上でも説明した通りです。
最高裁はこの時、2006年1月以降だけでなく、過去にさかのぼって違法と見なしました。
このため完済から10年であれば、グレーゾーン金利の利息分を返還請求できました。
<関連記事>:消費者金融の過払い金請求で気を付けたいことは?
グレーゾーン金利の廃止、貸金業者から見た影響は?
一方の貸金業界は、経営面で大きな逆風を迎えることになりました。
一つは適用金利が下がったことで、キャッシングにおける収益性が大幅に悪化したためです。
2つ目は、過払い金請求への対応です。
それまでの貸金業者は、出資法の上限金利である29.2%での貸出が一般的でした。
過去10年分もの過払い金の請求費用は莫大で、貸金業者の経営を一層追い込むことになりました。
中小の貸金業者は廃業に追い込まれ、大手の消費者金融は銀行傘下に入り、経営の効率化を図ることで生き残りを果たしました。
また信販会社やクレジットカード会社も同様に、過払い金請求で経営が悪化し、業界再編の一因となりました。
こうして見ると、利用者にとってメリットだらけに見えますが、不都合も出てきました。
上限金利が引き下げられたことで、審査基準は以前に比べて厳しくなりました。
信用力の低い利用者を受け入れる余裕が、なくなったためです。
これにより、以前の基準では融資を受けられた利用者が、審査に通らなくなるという新たな問題が生じています。
<関連記事>:【元銀行員が解説】消費者金融の審査基準について
ここまでグレーゾーン金利について見てきました。
現在は廃止されたものの、その影響は今も多方面に及んでいます。
これからキャッシングする人には直接関係のない話でしたが、頭の片隅に入れておいてもらえたらと思います。
- グレーゾーン金利とは、利息制限法と出資法で定められている上限金利の間に存在する金利帯
- 利息制限法を超えていても、出資法の上限金利内であれば罰則規定はなかった
- みなし弁済規定によってグレーゾーン金利が合法化していた
- みなし弁済規定は最高裁判決によって違法とされ、改正貸金業法でグレーゾーン金利は正式に撤廃となった
- 過払い金請求の対応のため、貸金業界全体が厳しい経営環境に追い込まれた