個人間でお金の貸し借りをする場合、必要になるのが「借用書」です。「借用書」という言葉を聞いたことはあっても、その内容や作り方を詳しく知っている人は少ないと思います。
今回は借用書とは何か、また有効な借用書を作成するためのポイントについて、分かりやすく解説します。
目次

この記事の監修者: 弁護士 郡司 理
都内法律事務所勤務を経て、2017年に弁護士法人日栄法律事務所共同代表 虎ノ門,池袋,町田にオフィス開設 取扱い分野は建築紛争、労働事件、ハラスメント対応など
「借用書」って何?
そもそも借用書とは、どのような書類なのでしょうか?まず初めに、借用書を作成する意味やメリットについて、詳しく見ていきましょう。
借用書とは?その効果と必要性
借用書とは貸主と借主の間で、お金の貸し借り(の契約)を証明するための書類(=契約書)です。書類の内容としては、お金の貸し借りの事実と、借主から返済を行う際の条件が記載されます。
借用書を作成した場合、貸主は借主へお金を渡すと同時に、借主が署名を行った借用書を受け取ることになります。お金の貸し借りは、書類を作成していなくても、口約束だけでも成立するため、借用書が必須というわけではありません。
とは言え口頭でのやり取りだけでは、借主から「借りていない、譲渡だ」と主張されたり、貸主に当初の約束と異なる条件での返済を求められるなどの恐れがあります。
個人間でお金を貸し借りする際には、トラブルを未然に防ぐために、借用書の作成が不可欠です。
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「借用書」と「金銭消費貸借契約書」の違いは?
お金の貸し借りを証明するために作成する書類には、借用書の他に「金銭消費貸借契約書」があります。金銭消費貸借契約書も、借用書と同じく、お金の貸し借りの証拠となる書類です。
ただし借用書と金銭消費貸借契約書とでは、作成方法に異なる点があります。借用書は、通常は借主側が1通のみを作成・署名し、貸主の手元に保管します(借主には通常借用書のコピーを交付することが多いです)。
それに対して金銭消費貸借契約書は、借主・貸主で2通作成し、双方が署名した上で、ぞれぞれ1通ずつ保管する事になります。
以下の表では、借用書と金銭消費貸借契約書の特徴を一覧にまとめました。
特徴 | 借用書 | 金銭消費貸借契約書 |
---|---|---|
作成通数 | 1通 | 2通 |
署名 | 借主のみ | 借主、貸主 |
保管先 | 貸主 | 借主、貸主 |
<関連記事>:金銭消費貸借契約書とは?分かりやすく解説
借用書を作成するメリットは?
借用書の作成には、以下の2つのメリットがあります。
<メリット1:手軽に作成できる>
借用書なら、借主側が署名したものが1通あれば良いので、金銭消費貸借契約書よりも手間や時間をかけずに作成できます。また詳しくは後で説明しますが、借用書の方が作成する枚数が少ない分、収入印紙代も安く済みます。
<メリット2:裁判で有力な証拠となる>
借用書なしでお金を貸した場合、借主側が「お金を借りた覚えはない」などと主張して、お金を返してもらえない危険性があります。ですが借用書があれば、お金を貸したことを証明でき、裁判でも重要な証拠となります。
なお借用書が存在するだけでは、未返済分のお金を回収するために財産を差し押さえることはできません。借主の財産を差し押さえるには、裁判上の手続きが必要になります。
借用書を作成したい!何を書けば良いの?
ここまで、借用書を作成する意味とメリットを確認しました。では実際に、借用書にはどのような内容を記載すれば良いのでしょうか?
借用書に必要な10項目
一般的に、借用書の作成に必要な項目は以下の10つです。
借用書の作成に必要な10項目 |
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借用書に記載する利息には上限がある
お金の貸し借りでは、基本的に、レンタル料として利息が発生します。契約金額に対する利息の割合(=金利)を定めているのが、「利息制限法」です。
個人間のお金の貸し借りについて、利息制限法が定める金利の上限は、以下の通りです。
借入額 | 上限額 |
---|---|
10万円未満 | 20% |
10万円以上100万円未満 | 18% |
100万円以上 | 15% |
利息制限法に定められた上限を超えて金利を設定した場合、上限を超えた分は無効となります。また金利が高過ぎると、返済が滞ったり、トラブルに発展する危険があるので注意しましょう。
<関連記事>:利息制限法とは?分かりやすく解説
返済方法は具体的に記載する
返済方法や返済期日を細かく決めないままお金のやり取りを行うと、後日トラブルに発展する危険性が高いです。期日までに一括返済するのか、または分割返済にするのか、必ず具体的に書きましょう。
特に分割返済の場合、毎月の返済日や返済金額まで明確にしておくことが重要です。また銀行振込みで返済するか、貸主の住所まで持参するか、お金の受け渡し方法も明記しておくと良いでしょう。
受け渡し方法の記載がない場合は、基本的に借主が貸主の家に持参して返済する事になります。
借主の署名押印で偽造を防ぐ
借用書は、手書きではなくパソコンで作成することが可能です。とは言え、全てパソコンで作成してしまうと、貸主が自分の都合の良いように借用書を偽造しても、見破ることは難しくなります。
そのため借用書を作成する際は、偽造をできるだけ防止するために、借主による自筆の署名と押印をした方がよいでしょう。
借用書を作成する際の注意点は?
借用書を作成する際、方法を間違えると借用書そのものが無効となったり、借用書を作成したにもかかわらず後々トラブルとなる恐れがあります。最後に、有効な借用書を作成するため、注意すべき4つのポイントを見ていきましょう。
借用書の金額は大字で書く
注意すべきポイントの一つが、数字の書き方です。借用書の場合、改ざんを防ぐために、通常の漢数字やアラビア数字は使用しません。
たとえば「一万円」と書いてあったとすると、線を1本足すだけで「十万円」に書き換えることが出来てしまいます。アラビア数字も「1」と「7」を読み間違えたり、数字を改ざんされる恐れがあるため、借用書には適していません。
そのため借用書に契約金額を記載する時には、「大字(だいじ)」を使った方がトラブルを防止できます。大字とは、「一」「二」「三」などの単純な字形の漢数字に代わって使う漢字のことです。
以下、借用書で使用する大字を表にまとめました。
漢数字 | 大字 |
---|---|
一 | 壱 |
二 | 弐 |
三 | 参 |
五 | 伍 |
十 | 拾 |
百 | 陌、佰 |
千 | 阡、仟 |
万 | 萬 |
十万 | 壱拾萬 |
百万 | 壱陌萬、壱佰萬 |
たとえば「125万円」の借用書の場合、契約金額は「壱佰弐拾伍万円」と記載します。
収入印紙の貼り忘れに注意
契約金額が1万円以上なら、借用書や金銭消費貸借契約書に収入印紙を貼る必要があります。収入印紙を貼り忘れても、お金の貸し借りが無効になる訳ではありません。
しかし法定の金額の収入印紙を貼らないと、印紙税法違反として、罰則の対象になります。罰則では、本来貼るべき収入印紙の3倍の金額を納付することが規定されています。
ちなみに借用書に貼るべき収入印紙の金額は、下の表のとおりです。
契約金額 | 収入印紙の金額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
<外部の関連サイト>:契約書や領収書と印紙税(平成30年5月)| 国税庁
一方に著しく不利な取り決めはNG
借主または貸主のどちらかが一方的に不利になるような内容を書くと、その借用書は無効になる場合があります。特にお金の貸し借りにおいては、貸主側が有利になりがちです。
「借用書に書ていない内容は、すべて貸主の言う通りとする」などといった、借主側に不利益となる記載がないよう、十分注意しましょう。
未成年者との契約は無効
未成年者などの「制限行為能力者」と交わした借用書も原則として無効です。「制限行為能力者」とは、判断力が十分でない、一人では完全な法律行為を行うことのできない人を指します。
<外部の関連サイト>:基礎知識「未成年者契約の取消し」 | 東京くらしWEB
具体的には、未成年者や成年被後見人、被保佐人、被補助人のことです。制限行為能力者は、一方的に不利な内容の契約であっても、正しい判断ができない危険性があります。
そのため制限行為能力者とお金の貸し借りをする場合には、保護者や成年後見人、保佐人、補助人の同意が必要です。
<関連記事>:未成年(18歳・19歳)がお金を借りる方法は?
以上、借用書の効果や、有効な借用書を作成するためのポイントについて解説しました。親しい友人や親戚が相手であっても、口約束だけでのお金の貸し借りはトラブルのもとになります。
上で見てきた通り、借用書は注意点さえ守れば、自分で簡単に作成することが可能です。自分自身を守るため、お金の貸し借りを行う時には、借用書をきちんと用意しましょう。
この記事のまとめ |
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<監修者のコメント>
お金の貸し借り(金銭消費貸借契約といいます)は日常的に最もよく行われている契約の一つですが、お金の貸し借りの事実そのものや、その金額、返済期限や返済方法をめぐってトラブルが生じることが頻繁にあるため、お金の貸し借りを行う際には借用書や金銭消費貸借契約書の作成は必須です。
しかし、せっかく借用書や金銭消費契約書を作成しても、その内容や書き方に問題があるために、結局後日トラブルとなってしまうことも多くあります。
そこで作成の際には、信頼できるウェブサイトや本の情報を参考にしたり、金額が大きい場合には専門家への相談をおすすめします。
