多くの人にとって耳慣れない言葉かもしれませんが、「金銭消費貸借契約書」は借入をする際には必ず必要になる書類です。
住宅ローンだけでなくカードローンなど、金融機関だけでなく貸金業者との取引でも目にするシーンは意外に多くあります 。ここでは金銭消費貸借契約書の基本について、分かりやすく解説します。
目次
金銭消費貸借契約とは?
そもそも金銭消費貸借契約とは、どういったものなのでしょうか。まずは、消費貸借契約について解説します。
消費貸借契約とは?
「消費貸借契約」とは、借主が同等の品質・数量のものを返すことを貸主と約束して、貸主から受け取る契約を指します。
借りたものと全く同じものではなく、種類・品質・数量が同等のものを返還する約束なので、貸借した物品は自由に消費できます。これが「消費」貸借契約と呼ばれる理由です。
民法第五百八十七条
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。引用元:民法587条│e-Gov
一方で金銭消費貸借契約とは、借りる金額と同等の金額を返済することを条件に、そのお金を受け取る契約を指します。
金銭消費貸借契約は、消費賃借契約のうち「金銭」を対象とするやり取りだと考えると、理解しやすいと思います。
<外部の関連サイト>:法律入門講座「民法の全体像(利用型契約)」
金銭消費貸借契約はどんな時に交わされる?
金銭消費貸借契約は、金融機関や賃金業者から融資を受ける場合に交わすことになります。具体的には、以下のような場合です。
金銭消費貸借契約が交わされるケース |
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返済を前提とした金銭の貸し借りはすべて、金銭消費貸借契約の対象となり得えます。知人や親戚からの借金で契約書を作成するのは気が引ける、という方がいるかもしれません。
ですが「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉があるように、お金の貸し借りには大きな責任が伴います。
相手に契約の重要性をハッキリ意識させる目的で、契約書を取り交すケースはよくあります。
<関連記事>:お金がない時の乗り切り方は?
金銭消費貸借契約書に関する注意点は?
ここでは金銭消費貸借契約書を準備する際に、気をつけておきたい点についてお伝えしていきます。
借用書よりも金銭消費貸借契約書が望ましい
金銭消費貸借契約を交わしたことを証明する書面として、「借用書」と金銭消費貸借契約書があります。どちらも法的な効力は同等ですが、作成方法が異なります。
借用書は、通常は借主側が1通のみを作成・署名し、貸主の手元に保管します(借主には通常借用書のコピーを交付することが多いです)
それに対して金銭消費賃借契約書は、借主・貸主で2通作成し、双方が署名した上で、それぞれが1通ずつ保管する事になります。
以下の表で、借用書と金銭消費貸借契約書の特徴をまとめました。
特徴 | 借用書 | 金銭消費貸借契約書 |
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作成通数 | 1通 | 2通 |
署名 | 借主のみ | 借主・貸主 |
保管先 | 貸主 | 借主・貸主 |
借用書の方が手軽に作成できますが、貸主のみが保管するだけなので、紛失や改ざんのリスクは高いです。
同じ内容の書面が両者の手元に残る分、金銭消費貸借契約書の方がより望ましいでしょう。
<関連記事>:借用書の書き方を解説!法的に有効な(無効にならない)ためには?
収入印紙が必要になる
金銭消費貸借契約書は貸借する金額に応じて、収入印紙を貼る義務が生じます。収入印紙とは、印紙税法で定められた文書に対して支払うべき税金のことです。
誰が代金を支払うかの決まりはなく、貸主・借主の相談によって決めます。貸借金額に応じた収入印紙の税額は、以下の通りです。
貸借金額 | 印紙税額 |
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1万円以下 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円超50万円以下 | 400円 |
50万円超100万円以下 | 1,000円 |
100万円超500万円以下 | 2,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 10,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 10,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 20,000円 |
仮に収入印紙を貼り忘れても、契約が無効になることはありません。
ただし過怠税として、元々の印紙税額の3倍に相当する金額が徴収されるので注意してください。
<外部の関連サイト>:印紙税額の一覧表 – 国税庁
契約書は自力で作成できるの?
金銭消費貸借契約書は、自力で作成した場合でも弁護士に依頼した場合でも、同様の法的効力を持ちます。書籍やインターネット上に雛形があるので、法律の知識が乏しくても自力で作成可能です。
とはいえ自身で作成することが不安な人は、弁護士に依頼をするのも一つの手です。事務所によって金額は多少上下しますが、3万円程度が相場です。
なお銀行や消費者金融などの金融機関・貸金業者と契約する場合は、先方で雛形(ひながた)を用意してあります。契約書を自身で作成したり、弁護士に依頼する必要はありません。
未成年者との契約は無効
未成年者などの「制限行為能力者」と交わした契約書も、原則として無効です。「制限行為能力者」とは、判断力が不十分で、単独で完全な法律行為を実行できない人を指します。
具体的には、未成年者や成年被後見人、被補佐人、被補助人を指します。制限行為能力者は一方的に不利な内容の契約であっても、正しい判断ができない危険性があります。
そのため制限行為能力者とお金の貸し借りをする場合には、法定代理人(保護者や成年後見人、保佐人、補助人など)の同意が必要とされています。
特に未成年が法定代理人の同意なしで結んだ契約については、後から取り消しが可能です(民法5条)。
金銭消費貸借契約書の構成内容(中身)は?
金銭消費貸借契約の記載事項
金銭消費貸借契約書の記載事項には、以下のような項目があります。
金銭消費貸借契約書の記載事項 |
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これらのうち、分かりづらい項目について以下で詳しく解説していきます。
利息(金利)について
民法では個人の金銭の貸借は無利息が原則とされていますが、当事者同士の合意があれば利息を設定することが可能です。
ただし好き勝手に金利を決めることはできず、「利息制限法」によって上限金利が定められています。
元金が10万円未満であれば年率20%、100万円未満であれば年率18%、100万円以上であれば年率15%が上限となっています。
上限を超える利率に両者が合意して契約書を作成したとしても、その超過利息は法的には無効として扱われます。
また出資法では個人間の借金について、上限金利を年109.5%と定めています。ですが個人間の借金についても、利息制限法が適用されます。
出資法の上限金利を超えていない場合でも、利息制限法の上限金利を超えた利息については、法的に無効となります。
ちなみに利息を定めずに契約を交わした場合は、民法第404条によって税率は年5%に設定されます。
<関連記事>:利息制限法とは?上限金利など分かりやすく解説
遅延損害金
遅延損害金とは、返済が遅れた場合に発生する、延滞金のようなものです。利率と同様に、遅延損害金も利息制限法によって上限額が定められており、利息制限法を超える金額は法的に無効です。
かつては利息制限法により、遅延損害金の上限金利は29.2%とされていました。ですが2010年の法改正により、利息制限法第7条により上限金利は年率20%に改められました。
このため各金融機関・貸金業者ともに、遅延損害金の上限金利を最大でも20%に設定しています。
<関連記事>:遅延損害金とは?分かりやすく解説!
連帯保証人
連帯保証人とは、借主が返済できない時に、代わりに返済する法的義務を負う人のことを指します。借主の返済能力に疑問がある際に、借主と貸主の交渉によって人的担保として設定されます。
連帯保証人は「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」という、貸主に対抗できる手段を持たない点で、非常に大きな責任を背負います。
「催告の抗弁権」は、借主がいきなり保証人に請求してきた場合、先に借主本人に請求するよう求めることができる権利です。
また借主に返済資力があることを保証人が証明できた場合に、貸主は借主から先に取り立てをする必要があります。この保証人の権利を、「検索の抗弁権」と呼びます。
さらに「分別の利益」では、保証人が複数人いた場合、返済額をその人数で割った金額だけ払えば、それ以上は払わなくて良いことになっています。
保証人であればこれら3つの権利を主張することができますが、連帯保証人はできません。
期限の利益の喪失条項
期限の利益とは、返済期日までは貸借した金銭を返済しなくて良いという、借主の権利のことです。逆の言い方をすれば、貸主は借主に一括返済を要求できないということです。
ですが、ある条件を満たすと「期限の利益」が失われ、貸主は一括返済を要求できます。一般的な期限の利益の喪失条項は、以下の4項目です。
一般的な期限の利益の喪失条項 |
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実際はこれ以外にも、金融機関(や貸金業者)との取引では、様々な追加条項が盛り込まれることが多いです。
たとえば借り手が反社会的勢力(暴力団関係者)であることが判明した場合の、期限の利益の喪失条項が、必ず盛り込まれています。
このほか財務状況の虚偽発覚や延滞(2~3か月の返済遅れ)なども、期限な利益の喪失となる条項が盛り込まれることが一般的です。
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金銭消費貸借契約書を公正証書で作成すべき理由とは?
金銭消費賃借契約書を公正証書で作成すると、その効力がアップして返済の確実性が高まります。ここでは、公正証書の基本と効果について見ていきます。
公正証書とは?
「公正証書」とは、公証人法に基づいて、公正役場で作成される公文書のことです。
法律の専門家である公証人が作成するので、書類としての証明力が高まります。金銭の貸借契約書の他に、遺言書などでも活用されることが多いです。
公正証書にするメリットは?
金銭消費貸借契約書を公正証書で作成する、主なメリットは以下の通りです。
・紛失や改ざんのリスクがなくなる
・強制力をもたせることができる
公証人が作成する書類ですから、証明力や信頼性が非常に高く、有力な法的根拠となります。
契約書の原本は公証役場に保管されるため、書類の紛失や改ざんリスクはゼロになります。
また通常の金銭消費貸借契約書は、貸借契約の証明にはなるものの、返済を強制する効力はありませんでした。ですが公正証書には、「執行認諾条項」を設けることが可能です。
執行認諾条項とは、債務不履行の際に強制執行をすることを認めた条項です。執行認諾条項が付いた公正証書であれば、裁判不要で強制執行に移ることができます。
借主に大きなプレッシャーを与えられるので、返済の確実性は高まるはずです。
ただし諸費用が発生する
証明力が高まる公正証書ですが、その分だけ手間と費用がかかります。公正証書を作成するためには、公証役場へ出頭する必要があります。
公証人への手数料は、以下のように定められています。
貸借金額 | 手数料 |
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100万円以下 | 5,000円 |
100万円超200万円以下 | 7,000円 |
200万円超500万円以下 | 11,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 43,000円 |
その他にも正本・謄本の代金として、1枚につき250円がかかります。公正証書を送達してもらう場合は、1400円と別途郵便代がかかります。
公正証書を作成すると手間と費用こそかかりますが、それを上回るほどのメリットがあるといえます。
ここまで、金銭消費貸借契約書の基本について見てきました。貸し手・借り手どちらの立場であっても、金銭消費貸借契約書の内容について、事前にしっかり目を通しておくのが大切です。
特に貸し手に回る際は、契約書を公正証書で作成することで、万が一のトラブルに備えましょう。
この記事のまとめ |
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