借入の契約か何かで、「期限の利益の喪失」という言葉を聞いたことある人もいるでしょう。言葉そのものは知っていても、その意味まで理解してる人は多くありません。
今回は期限の利益の喪失について、わかりやすく解説します。
目次
期限の利益について
期限の利益の喪失について説明する前に、「期限の利益」について説明します。あなたが金融機関から借り入れをする時に、必ず関係する用語です。
「期限の利益」とは借り手の受け取る利益
期限の利益とは、期限が到来しないことによって当事者が受け取る利益のことです。ここで言う当事者とは債務者(=借り手)のことで、受け取る利益とは、債権者(=貸し手)から請求を受けない権利を指します。
期限の利益については、民法136条で以下のように定めています。
期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
つまり債務者がキチンと返済をしていれば、債権者から返済を請求されない権利(=利益)のことを、期限の利益と呼びます。
借り手は、期限の利益を手放すこともできる
上で見た通り、期限の利益とは、借り手側の権利(=利益)です。ということは借り手側が希望すれば、期限の利益を放棄することもできます。
民法136条に、以下のような規定があります。
期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
期限の利益を放棄するとは、返済を請求されない権利を放棄すること、つまり借り手が一括返済(繰り上げ返済)することです。
要するに、借り手側が希望すれば、繰り上げ返済が可能という意味です。ただ、この点に関して注意点があります。
上のただし書きで、「これによって相手方の利益を害することはできない」とあります。これはどういう意味でしょうか。
繰り上げ返済による利益は、(法律では)認められていない
相手方の利益とは、つまり貸し手側の利益を指します。仮に借り手が100万円の年率10%で、1年間借入するとします。これを半年で全額返済した場合、返済利息は5万円になります。
この時、借り手は5万円の利息で済みますが、貸し手としては本来10万円入るべきだった利息が、5万円しか受け取れなかったことになります。
これは貸主から見れば利益を害することになるため、繰り上げ返済そのものは認められても、利息は全額(つまり10万円)を支払うことが要求されます。
ただし、これは民法上の解釈の話です。実際に金融の世界では、繰り上げ返済を行うと、追加の利息は払わなくて良いことになっています。
期限の利益の喪失って何?
上では、期限の利益について説明してきました。ここからは本題である、「期限の利益の喪失」について説明します。
貸し手は一括返済を求めることが可能になる
期限の利益とは、返済を請求されないための借り手側の権利(=利益)、と上で説明しました。
期限の利益の喪失とは、この権利がなくなること、つまり貸主から一括返済を請求されることを指します。
とはいえ借り手からすれば、権利(=利益)の一部がなくなる事態です。貸主も理由もなしに、期限の利益の喪失を主張することはできません。
どんな場合に期限の利益が喪失となるのか、以下で詳しく見ていきます。
期限の利益を喪失するケースは?
期限の利益の喪失について、民法では以下の場合を規定しています。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
簡単に言うと、破産手続きを開始した時や、貸し手が要求する担保を提供できない場合に、期限の利益を喪失することになります。
こうした民法上の規定に加えて、貸主と借主の間の契約書で「期限の利益の喪失条項」を設けているのが一般的です。
期限の利益の喪失条項とは、「これに違反すると期限の利益を失います」という取り決めです。
期限の利益喪失条項って何?
たとえば銀行取引約定書(第5条)には、以下のような規定があります。
期限の利益喪失条項(の一部) |
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先程の民法の規定よりも、厳しい項目が盛り込まれていることが分かります。返済遅れだったり、財務上に虚偽であったり、借り手が暴力団員であった場合、期限の利益を喪失することになります。
銀行取引約定書は銀行取引を行う際に、必ず結ぶ契約書です。つまり銀行取引で、これらに一つでも違反すると、期限の利益を喪失することになります。
また金銭消費貸借契約書でも、こうした期限の利益の喪失条項が盛り込まれていることが一般的です。
このように、期限の利益は借り手に有利な権利ではありますが、実際の取引ではかなり制限されていることが多いです。
<関連記事>:金銭消費貸借契約書とは?元銀行員が分かりやすく解説
期限の利益喪失って、どんな風に運用されてる?
期限の利益が、どんな風に制限されてるか、上で解説しました。では期限の利益の喪失について、実際にはどんな運用がされているのでしょうか。以下で見ていきます。
多少の返済遅れでは、一括返済を請求されない
期限の利益の喪失条項で、一部でも返済遅れがあった場合でも、期限の利益を失うと説明しました。
ですが実際のところ、多少返済が遅れたぐらいで、期限の利益を喪失して一括返済を請求されることは、まずありません。
期限通りに返済することが一番望ましいですが、ついうっかり二三日返済が遅れるのは、よくある話です。その度に一括返済を請求していたら、銀行としても大きな負担になります。
では実際には、どのタイミングで一括返済を請求されるのでしょうか。正確なタイミングは各金融機関によって違いますが、返済期日から二か月間を経過したタイミングが一般的です。
というのも、このタイミングで返済遅れは延滞となり、事故情報に登録されるためです。つまり返済期日から2ヶ月が過ぎたタイミングで、期限の利益の喪失を貸主に主張されることになります。
<関連記事>:消費者金融の返済遅れ(返せない時)、どうなるの?
財務情報の重大な虚偽・反社勢力は、一括返済の対象
多少の返済遅れなら見逃してもらえますが、財務情報に重大な虚偽があったり、借り手が反社会的勢力であることが判明した場合は話が別です。
財務情報の重大な虚偽とは、たとえば申告している年収が実際と大きく違う場合です。年収600万円でローン申し込みをして審査に通ったとして、後になって年収が実は200万円だったとします。
この場合は重大な虚偽ということで、期限の利益を喪失し、一括返済を請求されることになります。
また借り手が反社会的勢力(暴力団関係者など)であることが分かった場合も、期限の利益を喪失し、一括返済を請求されます。
このように期限の利益の喪失条項に該当していても、実際に一括返済を請求されるかは、項目によって違います。
<関連記事>:カードローン審査で嘘をつくのは危険?
銀行カードローンは、1年ごとに契約更新をしてる
消費者金融と違い銀行カードローンでは、1年ごとに契約を更新するのが一般的です。こうした契約形態をとる理由を銀行側は説明していませんが、筆者(=もぐお)は期限の利益の喪失が関係していると考えています。
仮に銀行カードローンの契約をして、1年間問題なく返済している人がいると考えてください。仮に少し怪しい人であったとしても、反社会的勢力である証拠がなければ、期限の利益の喪失を主張することはできません。
ですが銀行カードローンの契約が1年ごとの更新であれば、怪しいとわかったタイミングで、次回の更新を断ることもできます。
更新についての判断は銀行側が持っているため、借り手側は拒否できません。借り手に有利な期限の利益ですが、銀行カードローンは独自の取引形態で制限を掛けているように見えます。
<関連記事>:カードローン返済の上手なコツは?
以上、期限の利益の喪失について説明してきました。借り手側の権利である期限の利益を制限するために、貸し手である金融機関が、期限の利益を制限するための項目を契約書に盛り込んでいることが一般的です。
ただ実際にどの程度適用するかは、項目によって異なります。多少の返済遅れなら期限の利益の喪失を主張されることはありませんが、借り手が反社会的勢力の場合には、一発で一括返済を請求されます。
この記事のまとめ |
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