「代物弁済」という言葉を聞いたことがありますか?お金を借りたら、借りた金額に利息を付けて返済するのが普通ですよね。
ですが貸主・借主の両方が合意していれば、お金の代わりに資産を給付することで、返済の代わりにすることができます。これが代物弁済です。
今回は、代物弁済の中身や条件について、分かりやすく解説します。
目次
代物弁済とは?キホンを解説します!
弁済とは?返済との違いは?
本題に入る前に、まずは言葉の定義を知っておきましょう。「弁済」と似ている言葉に、「返済」があります。
どちらも一般的には「借りた物やお金を返す」という意味で使われますが、以下のような違いがあります。
・返済:借りたものの一部でも返すこと
・弁済:借りたものを全部返すこと
つまり借りたものを全部返せば、弁済であり返済です。一方で、借りたものを一部だけ返した場合、返済ですが弁済ではありません。
このほか、「弁済」は法律用語としても使われます。法律用語としての「弁済」は、「債務を履行し債権を消滅させる」という意味です。というと難しい感じがしますが、実はとても簡単です。
例えばAさんがBさんから、お金を借りたとします。当然AさんはBさんにお金を返す義務(=債務)があり、同時にBさんはAさんからお金を返してもらう権利(=債権)があります。
Aさんが債務を履行したとき、つまりBさんから借りていたお金を返した時、Bさんの債権は消滅します。これが弁済です。
ちなみにAさんが借りた額の一部しかBさんに返していない場合、弁済とは言いません。なぜかというと債務がまだ残っており、全部の債権が消滅していないからです。
<関連記事>:代位弁済とは?分かりやすく解説!
代物弁済とは?
代物弁済とは、債権者の同意を得た上で、本来負担する給付とは別の物で弁済をすることです。(民法第482条)
民法第482条
債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
先ほどの例のように、お金を借りたら利息をつけて、お金で弁済するのが普通ですよね。ですがお金で弁済ができない場合、債権者と債務者が同意していれば、価値ある資産を債権者に給付することで弁済したとみなすことも可能です。
例えば借金を返せない代わりに、借入額と同程度の価値がある不動産を債権者に譲渡する、というケースが分かりやすいでしょう。ちなみに不動産だけでなく、動産や債権での弁済も法的に可能です。
代物弁済するには4つの要件がある
代物弁済には4つの要件があり、1つでも欠いていると代物弁済が成立しません。以下で1つずつ見ていきましょう。
<1.債務の存在>
代物弁済は債務があることを、前提としています。当然、債務が存在しない場合に、代物弁済はできません。
<2.本来と異なる給付が現実になされる>
代物弁済とは、本来とは異なる給付で債務を返済する方法です。たとえば債権の内容が金銭だったら、債務も金銭で弁済するのが普通です。
しかし金銭以外の不動産や動産、債権で債務を履行するのが代物弁済です。また代物弁済が成立するためには、債務者から債権者へ実際に資産を引き渡す必要があります。
不動産を代位弁済に用いる場合は、登記をすることも要件に含まれます。
<3.返済に代える>
債務者が債権者に資産を譲渡することで、本来の債務が消滅します。詳しくは、「資産の価値が弁済額に満たない場合」で詳しく取り上げます。
<4.債権者の承諾>
代物弁済を行うには、債権者の承諾が必要です。債務者が資産で弁済しようと思っても、債権者がそれを拒否した場合、代物弁済はできません。
代物弁済の予約が可能
代物弁済では、返済不能時に、譲渡の資産をあらかじめ予約することが可能です。これを「代物弁済予約」と言います。
これにより、債務者が債務を履行できなかった場合、代物弁済予約で指定した資産の所有権が、債権者に移転します。資産を担保に入れているのと同じ状態ですね。
その点で代物弁済予約は抵当権と似ていますが、次のような違いがあります。抵当権を持つ不動産を取得した場合、その不動産を任意売却するか競売にかけ、その費用を返済にあてます。
ただし競売も任意売却も手間がかかりますし、実際の価値に比べて売却価格が低くなりがちです。
一方の代物弁済の場合、予約完結権を行使して、所有権移転の本登記をするだけです。抵当権の場合に比べると手間が少なく、資産の価値も変わらないというメリットがあります。
代物弁済の手続きの流れ(不動産を例に)
代物弁済は、どのような流れで手続きを進めるのでしょうか?ここでは不動産で代物弁済予約をするケースを例に、所有権が債権者に移る過程を見てみましょう。
1.代物弁済契約書を作成
代物弁済予約をするには、債権者と債務者の間で契約書を作成する必要があります。契約書に記載する内容は、「債務の詳細と期限・予約する資産・登記義務・予約完結権・清算」などです。
債務が弁済できなかった場合、弁済に用いる資産を具体的に決めておきます。なお代物弁済に用いる資産は、債権ときっちり同額である必要はありません。
2.所有権移転請求権の仮登記
代物弁済予約契約書を作成したら、債権者と債務者が同席の上で、所有権移転請求権の仮登記を行います。不動産が対象の場合は、その不動産を管轄する法務局で申請します。
申請に必要な書類は次の通りです。
所有権移転請求権の仮登記の申請時に必要な書類 |
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また仮登記には登録免許税がかかり、土地・建物どちらも不動産価格の1/100と設定されています。
3.債務者が債務不履行
期日までに債務者が債務を履行しなかった場合、代物弁済予約の完了手続きに入ります。まずは清算金見積書(債権額・資産の見積価格・債務者の負担額を記入)を債務者に通知します。
債権の保証人がいる場合は、その人にも通知を出します。
4.代物弁済の実行
資産の所有権が移転するには、最低でも2カ月ほどかかります。この期間は債権額と不動産の額に大きなズレがないか、債務者が確認するために設けられています。
もし不動産の評価額が債権額を上回る場合、債務者は債権者に差額分を清算してもらうことが可能です。清算が終わったら、債務者から債権者へ資産を引き渡し、本登記の申請を行います。
代物弁済で気を付けたい、3つのケース
1.資産の価値が債権額に満たない
資産価値が債権額より低い場合でも、その資産を引き渡した時点で弁済が完了したことになります(仮登記担保法第9条)。基本的には、債務者に差額の支払いを要求できません。
ただし契約書に「弁済額に満たない分の債務を残す」という特約があれば、差額を残債務として請求することができます。
2.資産の価値が弁済額を著しく上回る
逆に資産価値が債権額を大幅に超えていた場合、債務者は債権者に対し不当利得返還請求ができます(仮登記担保法第3条1項)。
仮登記担保契約に関する法律第3条
仮登記担保法第3条1項債権者は、清算期間が経過した時の土地等の価額がその時の債権等の額を超えるときは、その超える額に相当する金銭(以下「清算金」という。)を債務者等に支払わなければならない。
また極端に資産価値と債権額が異なる場合、代物弁済契約そのものが無効になってしまう可能性もあります。こうした事態を防ぐためには、資産の価値をしっかり把握することが大事です。
資産の価値がどれくらいか、不動産鑑定士などに評価してもらいましょう。
3.債務者が第三者に資産を譲渡する可能性がある
債権者に所有権が移るまでは、債務者が資産の所有権を持っています。そのため代物弁済前に、その資産を第三者へ譲渡することも可能です。
もし資産を第三者に譲渡した場合、債権者に給付できないので代物弁済の要件を満たせなくなります。つまり代物弁済が成立せず、債権者は債権の回収ができません。
第三者への譲渡を防ぐには、代物弁済予約を利用しましょう。所有権が債務者にあっても、仮登記をした資産は第三者に譲渡することができません。
以上、代物弁済について解説してきました。代物弁済はその性質上、債権額と資産の額にズレが生じる場合が多いです。
債権者も債務者も契約内容をきちんと把握して、双方納得した上で代位弁済を行いましょう。
この記事のまとめ |
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