「生活福祉資金貸付制度」という言葉を、聞いたことがありますか?
この制度を利用すれば、市役所などの公的機関に相談することでお金を借りれますが、利用条件など注意点が多くあります。
ここでは生活福祉資金貸付制度の基本や、利用にあたっての注意点などを見ていきます。

この記事の監修者: FP 張替 愛
FP事務所マネセラ代表 ファイナンシャル・プランナー
大学で心理学を学んだ後、国内損害保険会社に就職。夫の海外赴任を機に独立。教育費・老後資金・女性の働き方・資産運用・海外赴任など、家庭ごとの状況や想いを大切にした家計相談を中心に、マネー講座や執筆活動を行う。2児の母でもある。
◆事務所公式サイトはコチラ
生活福祉資金貸付制度って何?
生活福祉資金貸付制度とは、国からお金を借りる制度
「生活福祉資金貸付制度」とは、国が低所得者などの生活が苦しい人に、生活支援の一環としてお金を貸す公的な融資制度のことです。
お住まいの地域の公的機関を窓口にして、無利子もしくは低金利で、お金を借りられます。
詳しくは後ほど説明しますが、申請しても誰でも利用できるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。
生活福祉資金は、4種類ある
生活福祉資金は大きく分けて、「総合支援資金」、「福祉資金」、「教育支援資金」、「不動産担保型生活資金」の4つの種類があります。
資金の種類ごとに、利子・融資上限額が異なります。
以下は、それらをまとめた表です。
資金の種類 | 融資上限額 | 金利 | |
---|---|---|---|
総合支援資金 | 生活支援費 | 単身…月15万円以内 2人以上…月20万円以内 |
連帯保証人 あり…無利子 なし…年1.5% |
住宅入居費 | 40万円以内 | ||
一時生活再建費 | 60万円以内 | ||
福祉資金 | 福祉費 | 580万円以内 | |
緊急小口資金 | 10万円以内 | 無利子 | |
教育支援資金 | 教育支援費 | 高校…月3.5万円以内 高専・短大…月6万円以内 大学…月6.5万円以内 (場合によっては各上限額の1.5倍まで貸付可能) |
|
就学支度費 | 50万円以内 | ||
不動産担保型 生活資金 |
不動産担保型 生活資金 |
・土地評価額の70%程度 ・月30万円以内(要保護世帯向けの場合は生活扶助額の1.5倍以内) |
以下のいずれか低い利率 ・年3% ・長期プライムレート(※) |
<参考サイト>:生活福祉資金貸付条件等一覧|厚生労働省
※長期プライムレート:民間の金融機関が優良企業向けの長期貸出に適用する最優遇金利のこと。
融資上限額は、あくまでも様々な条件がそろった場合であり、申込者全員が上限ギリギリまで借りられるわけではありません。
利用できるのは低所得者、高齢者、障害者の世帯
生活福祉資金貸付制度を利用できるのは、以下のような世帯に限られます。
<低所得者世帯>
必要な資金を他から借り受けることが困難な世帯(市町村民税が非課税になる程度)
<高齢者世帯>
65歳以上の高齢者がいる世帯
<障害者世帯>
精神障害者保健福祉手帳、身体障害手帳、療育手帳を持つ人のいる世帯
「低所得」の基準は、資金の種類や居住地域、世帯人数ごとで異なります。
例えば東京都では、緊急小口資金を借りたい場合は、1人世帯で月額の収入が19万1千円以下、2人世帯で27万2千円以下の場合(※)が、低所得の基準となります
ほかには北海道では、1人世帯で年間世帯年収360万円程度まで、2人世帯で420万円程度まで(※)が低所得の目安となります。
※2019年度の収入基準。金額は毎年変わります。
コロナで利用対象が一部拡大した
上で見たように、「低所得」の基準は比較的厳しく、生活福祉資金貸付制度を利用できる人はかなり限られます。
ですが新型コロナ肺炎の流行に伴い、2020年3月25日より特別貸付制度が設けられました。
特別貸付制度によって、「緊急小口資金」と「総合支援資金(生活支援費)」の対象が拡大しました。
従来の「低所得」の基準を満たしていなくても、コロナによって収入が減ったり失業した人であれば、貸付を受けることができます。
特別貸付制度の詳しい内容については、「市役所でお金を借りる時の注意点は?」で解説します。
生活福祉資金の申し込み方法と必要書類は?
生活福祉資金の借入に必要な書類
銀行カードローンなどとは異なり、生活福祉資金貸付制度の申し込みには、下記のように必要書類がたくさんあります。
生活福祉資金貸付制度の必要なもの |
---|
|
指定された書類を全て用意しないと申し込みできないので、事前にしっかり確認しておくことが大切です。
総合支援資金・緊急小口資金の申し込み方法
平成27年から始まった「生活困窮者自立支援制度」により、「総合支援資金」・「緊急小口資金」の借入にを希望する場合は、自立相談支援機関の利用が条件になりました。
<外部の関連サイト>:生活困窮者自立支援制度の紹介|厚生労働省
そのため、総合支援資金や緊急小口資金の借入を希望する場合は、まず市役所などに設置された自立相談支援機関の窓口で、相談に乗ってもらいます。
そこで総合支援資金や緊急小口資金が利用できる可能性があると判断された場合、自立相談支援機関の相談窓口を通じて、居住地域の社会福祉協議会へ利用申請を行います。
提出した書類は、都道府県の社会福祉協議会で審査され、通過すると「貸付決定」となります。
最後に申し込みを行った社会福祉協議会に「借用書」を提出すると、貸付金が交付されます。
<関連記事>:借用書の書き方を解説!法的に有効な(無効にならない)ためには?
福祉資金・教育支援資金・不動産担保型生活福祉資金の申し込み方法
「福祉資金」・「教育支援資金」・「不動産担保型生活福祉資金」の借入を希望する場合は、居住地域の社会福祉協議会に相談のうえ申し込みます。
提出した必要書類は、都道府県の社会福祉協議会で審査され、通過すると「貸付決定」となります。
申し込みをした社会福祉協議会に「借用書」を提出すると、貸付金が交付されます。
生活福祉資金が借りれないケースとは?
一定以上の収入がある場合
生活福祉資金貸付制度は、低所得者など生活が苦しい方への支援融資制度なので、一定以上の収入がある場合は利用できません。
低金利でお金を借りたいからという理由では、当然ですが審査に落ちます。
また借入を希望する資金によっては、民生委員による自宅訪問を受けなければならなりません。
書類上は低所得世帯であっても、家に贅沢品などが多くあれば、貸付対象外になるケースがあります。
生活保護など他のサポートが対象となる場合
生活福祉資金貸付制度は、他の公的制度を受けることができない場合の「最終手段」としての側面があります。
そのため生活保護・失業保険・奨学金などの利用資格があれば、まずはそちらの利用を勧められます。
他の公的制度が利用できる場合だけでなく、既に利用している場合も原則として生活福祉資金を借りることができません。
貸付が認められる場合でも、借りられる金額は少額になります。
<関連記事>:生活保護の金額はどの位?いくら貰えるの?
返済の見込みがない場合
生活福祉資金貸付制度はあくまでも「貸付」なので、返済見込みがない人に貸すことはできません。
例えば無職の人や、多重債務に陥ってる人などは、利用できません。
ただし無職であっても、ハローワークなどで積極的に仕事を探していれば利用できるケースもあります。
<関連記事>:お金がない無職がお金を借りる方法はあるの?
第三者の連帯保証人になっている場合
連帯保証人を付けると生活福祉資金が無利子になることもあって、連帯保証人をつけて申請する人が多いです。
そのため友人などから頼まれて、生活福祉資金貸付制度の連帯保証人になっている人もいるかもしれません。
しかし他人の生活福祉資金貸付制度の連帯保証人になっている人は、生活福祉資金貸付制度を利用できません。
将来自分が利用したい時に利用できないので、誰かの連帯保証人になる際は注意してください。
保証人を付けられなかった場合
生活福祉資金貸付制度は、原則として連帯保証人が必要で、付けられないと審査に通らない場合があります。
制度の対象者は低所得者なので、連帯保証人の存在は審査する側にとって非常に重要です。
連帯保証人を付けなくとも申込みは可能ですが、その場合は無利子にならない上、審査が厳しくなるので注意してください。
市役所でお金を借りる時の注意点は?
生活保護とは違って返済義務がある
生活福祉資金は給付型の生活保護とは異なり、貸付制度なので返済義務があります。
返済に遅れると延滞利子が発生し、その後も滞納すると財産などを差し押さえられる場合があります。
計画的な返済を心がけ、万が一返せないと思ったら、できるだけ早く社会福祉協議会に相談してください。
<関連記事>:コロナでお金がもらえる?家計が苦しい方への給付金まとめ
融資まで1週間から2か月程度はかかる
生活福祉資金貸付制度では、融資まで1~2か月程度かかります。
緊急小口資金でも1週間はかかってしまうため、急な借入れには対応できません。
市町村の社会福祉協議会で提出書類をチェックした後に、都道府県の社会福祉協議会で審査するという手順を踏むので、融資実行までに長い時間を要します。
どうしても緊急にお金が必要な場合は、消費者金融などの民間業者を検討するのもひとつの方法です。。
<関連記事>:即日融資ランキングを解説!どのカードローンが選べばよい?
生活福祉資金の種類に応じた窓口を確認しておく
生活福祉資金貸付制度は、必ず自分の居住地域の市役所や社会福祉協議会などから申し込まなくてはなりません。
希望する資金の種類によって窓口も異なるので、どこにあるかを確認しておきましょう。
<相談先>
総合支援資金・緊急小口資金の場合:自立相談支援機関の窓口(市役所など)
福祉資金・教育支援資金・不動産担保型生活福祉資金の場合:社会福祉協議会の窓口
不安なことがあれば事前に電話で相談しておくと、申し込み手続きがよりスムーズに進むでしょう。
<外部の関連サイト>:令和元年度自立相談支援機関窓口情報(10月1日現在)
コロナで苦しい人は特別貸付制度の利用を検討
生活福祉資金貸付制度では、コロナに対する緊急支援策として、特別貸付制度が設けられました。
以下は特別貸付制度の詳細です。
緊急小口資金 | 総合支援資金(生活支援費) | |
---|---|---|
対象者 | コロナによる休業で収入が減り、緊急かつ一時的な生計維持のための貸付を必要とする世帯 | コロナによる収入減や失業などで生活が困窮し、日常生活の維持が困難となっている世帯 |
貸付上限額 | ・学校等の休業、個人事業主の特例の場合、20万円以内 ・その他の場合、10万円以内 |
・(2人以上)月20万円以内 ・(単身)月15万円以内 |
貸付上限額 | ・学校等の休業、個人事業主の特例の場合、20万円以内 ・その他の場合、10万円以内 |
・(2人以上)月20万円以内 ・(単身)月15万円以内 |
据置期間(返済猶予期間) | 1年以内 | 1年以内 |
償還期限(返済開始~終了までの期間) | 2年以内 | 10年以内 |
貸付利子・保証人 | 無利子・不要 | 無利子・不要 |
申込先 | 市区町村社会福祉協議会・労働金庫 | 市区町村社会福祉協議会 |
通常の場合、貸付制度を利用するには年収制限がありました。
ですが表からわかるように、コロナで収入が減ったり失業した人であれば、低所得の基準を満たしていなくても貸付の対象者に含まれます。
また特別貸付では通常の場合と比べて、貸付条件が向上しています。
緊急小口資金の貸付上限額は一律10万円以内でしたが、特別貸付では「学校等の休業、個人事業などの特例の場合は20万円以内」という条件が追加されています。
<外部の関連サイト>:緊急小口資金について | 厚生労働省支援特設ページ
総合支援資金(生活支援費)は連帯保証人がいない場合は、年率1.5%での貸付でしたが、特別貸付では連帯保証人の有無に関わらず無利子になります。
<外部の関連サイト>:総合支援資金について | 厚生労働省支援特設ページ
その他どちらの資金でも、据置期間・償還期限などの条件が緩和しています。
総合支援資(生活支援費)では、貸付期間が原則3ヶ月以内とされています。
貸付期間の終了後、最大1年間まで償還が猶予され
ます。
猶予期間が終わると返済がスタートし、10年以内に返済を済ませます。
さらに特別貸付制度では、返済免除の申請も受け付けています。
返済中も収入の減少が続くような住民税非課税世帯の場合は、返済の免除が認められます。
それ以外の世帯でも、大きな災害の被災、傷病など、やむを得ない事情で返済が困難になった場合は、返済の免除が認められるケースがあります。
<関連記事>:コロナでお金がない!個人がコロナ関連でお得にお金を借りるには?
ここまで、生活福祉資金貸付制度の基本と、利用にあたっての注意点について見てきました。
利用条件はやや厳しいですが、利用できれば生活の支えになる制度です。
まずは近くの市役所や社会福祉協議会に、気軽に相談してみてください。
この記事のまとめ |
---|
|
<監修者のコメント>
生活福祉資金貸付制度は、無利子もしくは民間金融機関よりも低い金利で借りることができるので、家計にとって大きな助けとなります。
対象者が絞られるので利用できるとは限りませんが、利用を検討する際に相談窓口に行くことで、自分の知らなかった役立つ支援制度を教えてもらえることもあります。
「もしかして利用できるかもしれない」と思ったら、勇気をもって相談してみると良いでしょう。